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[コメント] クーリエ:最高機密の運び屋(2020/英=米)

ドミニク・クックの前作、シアーシャ・ローナン主演『追想』(原作はイアン・マキューアンの「初夜」)が気に入っていたので期待して見る。
ゑぎ

 素人スパイのサスペンスというよりも、それ以上に、英国のビジネスマン、ウィン−ベネディクト・カンバーバッチと、ソ連軍の大佐ペンコフスキー−メラーブ・ニニッゼとの友情話。本作も、吃驚するような演出は全く無いが、タイトに緊張感を維持する。勿論、細かな常套のような演出の工夫は沢山あって、それらが積み重なってテンションが維持されていると云えるだろう。

 まず、カンバーバッチの登場は、ゴルフ場で、ワザとパターを外す足、黒いウィングチップの靴のショットから。モスクワ川(?)の河岸を歩く彼のショットは、クレーン(ドローン?)で俯瞰から寄って行く移動撮影だ。ショットで一番驚いたのはこゝかも知れない。二度ある舞台鑑賞シーン。一度目は「シンデレラ」で、これは舞台を映さない。対して、二度目は「白鳥の湖」。こゝで、舞台(バレエダンサーたち)を映し、過剰な反応をするカンバーバッチとニニッゼを演出する。また、所作の反復では、手から手への物の受け渡しが何度も出てくる。これは勿論スパイ活動というプロットからの要請ではあるのだが、でも、カンバーバッチを仲介者とした手渡しだけでなく、KGBの捜査官から、トルコの煙草をもらう場面などもあり、意識して描かれているのだろう。そして、亡命工作当日の緊張感あふれる描写から、クライマックス、尋問シーンでの二人の再会にいたる、畳み掛けるような展開。

 カンバーバッチの妻役はジェシー・バックリーで、『ワイルド・ローズ』のときのぶっ飛んだキャラ造型とは全く異なる、抑制の効いた演技で好演だ。CIAの女性工作員−レイチェル・ブロズナハンは、登場から華のある存在感。地味目な画面が、彼女のおかげで引き立つシーンも多かったと思う。

 ラスト近く、カンバーバッチが帰宅し玄関に入った際に、アレックス(ペンコフスキー)−ニニッゼとの思い出がフラッシュバックするのだが、ちょっとこれはベタ過ぎる演出か。しかし、これがあるので、本作は何よりも二人の友情譚だったのだ、という感慨を持つ。

(評価:★3)

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