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[コメント] アイ・アム まきもと(2022/日)

仰向けで寝ている牧本の俯瞰。どこに寝ているかは、地面の雰囲気で分かる。黒い玉砂利。墓地の一区画。彼はよくテンパって自制できなくなる。
ゑぎ

 行動が先で、言葉が後という言動の反復。ぶつかって、しばらくしてから謝ったり、紅茶一口飲んでから、いただきます、と云ったり。横断歩道を渡る際に、右左右と安全確認してから、まだ左右を見ながら歩く。あるいは、頻繁に「分かりません」と返答する。「牧本さん、子供いる?」と聞かれて「いりません」と答えたり。これらは、素直な素直な気質の現れだ。結果的に、恐ろしく察しの悪い男、と松尾スズキに云われる。そんな男を、阿部サダヲは全くあざとさを感じさせずに見事に演じていると思う。

 舞台は庄内。広大な田畑とその向こうの鳥海山が美しい。『おくりびと』もこの辺りが舞台だったが、オマージュなのだろうか。本作においても、どこまでがドローン撮影だろうと思いながら見た。鳥瞰のような大俯瞰や、霊園の牧本から後退移動するショットなんかはドローンに違いないが、普通ならクレーン撮影と思えるような、ラストカット(納骨堂の上からの俯瞰で、画面奥右手に墓地を去る人々を小さく、画面奥左には、虹を入れたショット)もドローンだろうか。

 あと、松下洸平でんでんの怒鳴り合いがいいし、漁港の居酒屋周りのシーンもいい。宮沢りえとその娘の片山友希。赤ちゃんの世話を頼まれる牧本。夕陽を見る宮沢とそれを見る牧本のショットが美しい。片山は葬儀シーンの泣き顔も絶品だ。そして養豚場で登場する満島ひかりがやっぱりいいのだ。映画でもテレビドラマでも、彼女が演じると全部アテ書きだったのか?と思ってしまうぐらい、画面を自分の空気にしてしまう女優だと思う。また、彼女の自宅での、会話シーンの切り返しも端正でいいと思った。牧本とだけでなく、仏壇の写真(亡くなった母親)とも切り返して見せる。その際、カメラ位置は180度転換する。

 ちょっと引っ掛かった部分もあげておくと、國村隼のエピソードはイマイチだと思った。友人の惨めな姿を見て、自分が幸せになるのを放棄する、というような論理が、世の中に無くはないかも知れないが、やっぱり映画としては、それを覆す展開が欲しいと思う。坪倉由幸が持ち込んだ局長室の優勝(?)カップの扱いもどうか。あと、これが決定的だが、ラストの合掌する人々の登場の見せ方は、私には素直に首肯できないものだ。私はリメイク元の映画を未見だが、多分、同じ見せ方なのだろう。しかし、彼我の文化の違いと云うよりも、死者が死者を悼むというなんか複雑な状況なのに、絵面はワザとらしい、という居心地の悪さを感じたのだ。もっとシンプルなエンディングの方が良かったと思う。

(評価:★3)

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