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[コメント] シラノ(2021/英=米=カナダ)

開巻の、屋内で操り人形が吊るされているカットの何て綺麗な色遣い!操り人形には何かの含意があったのかも知れないが、少なくも、これ見よがしな使い方ではない。続く、公爵の馬車の窓へのロクサーヌ−ヘイリー・ベネットの映り込みの演出も見せる。
ゑぎ

 クリスチャン−ケルヴィン・ハリソン・Jrが、ロクサーヌに一目惚れする演出も、通りの窓(ガラス)にロクサーヌが映り込むことを起点とする、この演出は特別な見せ方で、納得性が高いのだ。対して、劇場の中で、ロクサーヌが一目惚れする演出は弱いと思う。視線の交錯をもっと過剰に見せるべきではないか。ただし、この劇場内での、シラノ−ピーター・ディンクレイジの登場と、舞台上での活躍ぶりには興奮する。本作も序盤のつかみはバッチリの映画だ。しかし、私が最も良いと思ったのは、パン工房兼レストラン?で、ロクサーヌの告白を聞くシラノのシーンかも知れない。

 あるいは、街中でも軍隊のシーンでも、画面奥まで人が映っている、奥行きの演出にも、いいなぁと思いながら見た。クリスチャンの入隊初日の展開が自由過ぎると感じたが、そこはミュージカルらしいファンタジーだろう。また、ロクサーヌが、天真爛漫過ぎる、あるいは、クリスチャンの言葉の選び方によって心変わりが過ぎる、と思うが、そこもまた、許容すべきファンタジーなのだ。本作は手紙の映画、というか、言葉を愛する人の映画なのだから。それに、ベネットが可愛いので許してしまえるではないか。彼女の笑い声、楽しそうな科白の発声を私も楽しもうと思って見た。流石に、バルコニーのロクサーヌに、地上から二人で話しかける場面は、俄には許し難かったが。

 あと、中盤あたりから、後半の戦場のシーンには、かなり期待をしていたのだが(『つぐない』のダンケルクのシーンのようなスペクタクルを期待したのだ)、スケールよりは表現主義的演出が勝った画面造りになっていた。こゝも色遣いは良いと思うが、ちょっとがっかりしてしまった。

 エピローグのベンチに座ったシラノとロクサーヌを、縦構図に配置し、フォーカスの演出で見せる場面は、見事な造型だと思う。横臥したシラノの横顔を手前、シラノの方を向くロクサーヌの正面上半分を奥に配置したカットも。ともあれ、ピーター・ディンクレイジの堂々たる主演作を見ることができたのが一番嬉しい。この勢いで、もっと映画でも活躍して欲しい。

(評価:★3)

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