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[コメント] 浅草紅団(1952/日)

全体にかっちり作られている。何と云っても、2つの劇場での舞台シーンが、いいタイミングで挿入されるのが楽しい。タイトルは紅龍子という京マチ子の役名からとったもので、剣劇を中心にする芝居を見せる。
ゑぎ

 冒頭は京マチ子が男役の舞台。アクション繋ぎでフルショットからニーショットへ転換する呼吸もカッコいいのだ。もう一つの劇場は、科白ではストリップ小屋という言葉も使われていたが、乙羽信子が主役のレビュー・ショウだ。こちらの演出も洗練されたもので、ハリウッドミューカルのよう、と思いながら見た。乙羽のウエストショットが絶品なのだ。当時「100万ドルのえくぼ」と云われた左頬のくぼみが目立つ。

 さて、本作の主役は3人と云ってよく、もう一人は乙羽の恋人を演じる根上淳だ。根上は、京マチ子の一座から親方と呼ばれる浅草の有力者(ヤクザ)、岡譲二に楯突いたことで、浅草から追放された(というのか、浅草に戻れなくなっている)男。満を持しての根上の登場は、上野あたりの潜伏先での階段上で、これもカッコいい描き方。ラストまで度胸のある、いい男っぷりに描かれている。

 また、ワケあって浅草に戻った根上が、町を逃げる場面は、ゲリラ撮影だと思われる。展望台のシーンは松屋の屋上か。町の俯瞰パンニングが印象的だ。こゝにフラッシュバックで、乙羽と二人での浅草寺お詣りシーンや、隅田川の水上バスのカットが挿入され、乙羽の歌もかぶって、情感たっぷりな場面になっている。

 ただ、後半、京マチ子が根上をかくまうようなシチュエーションになってくると、京マチ子の位置づけの曖昧さが引っかかってしまった。岡譲二たちが彼女を責めたり、締め上げるようなモチベーションが希薄なのが不思議、というよりも、彼女を中心としたスリルも描くべきだろう、と思ってしまうのだ。また、刑事役の河村黎吉が、要所で登場し渋い演技を見せるのだが、河村は乙羽の叔父さん、ということもあり、もっと早く出て来て、活躍しろよ、とも思ってしまった。ちょっと悠揚過ぎる演出だろう。

(評価:★3)

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