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[コメント] 白い牙(1960/日)

主な舞台は神戸。池と林の側にある別荘のような豪邸の住人−会社社長の佐分利信、その娘の牧紀子、息子の三上真一郎を中心とするお話だが、主人公は、完全に牧紀子だ。
ゑぎ

 もう少し主要キャストを先に書き連ねておくと、大阪で旅館をやっている、佐分利の別れた(正確には、本編冒頭近くで離婚届に判を押す)妻に轟夕起子、佐分利の邸の隣人で、妻帯者だが一人暮らしをしている南原宏治がおり、中盤近くになって、邸に入る佐分利の愛人、桂木洋子がいる。これらが主要な登場人物だ。

 本作の牧紀子、全編に亘って、ほとんど怖い表情をしている。憎々しげに、誰かを(何かを)見つめるカットが多数あり、一貫して強い気性を強調した演技がつけられている。池の側の小道で、牧は南原に告白し、キスをするのだが、このシーンでも、牧は目を見開いており、強烈なキスシーンになっているのだ。そしてプロットは南原をめぐる、牧と桂木との三角関係になっていく。南原は、一見誠実そうに見えるが、まったく欲望に忠実な男を演じて適役。桂木洋子は相変わらずの童顔だが、年増の色香を見事に表出する(本作公開時で30歳だが)。あと、轟夕起子については、少々分裂気味のキャラ造型。さっきまで笑っていたかと思うと、唐突に風呂場のタイル床にうつ伏せになって泣いていたりする、情緒不安定な女を上手く演じている。

 画面造型で印象深かいシーンを挙げておく。まずは、轟夕起子の旅館のシーンで、路地の向こうに大阪城が見え、その手前を模型の電車(大阪環状線)が走る美術装置がある。今見るとチープではあるのだが、それでも、このような細部にお金をかけられたのだなぁと感心した。あと、佐分利の留守中に、南原を招いた食事会の場面。邸が停電してしまい、蝋燭の灯だけのシーンになる。こゝの蝋燭のカットが、南原の科白でもあったが、本当に美しいカットなのだ。また、牧が勝浦の旅館の部屋で、南原を待つ場面での、窓外に海岸が見えるカットは、スクリーンプロセスだろうか。異様に迫力のある画面になっている。そして、牧の夢想から、就寝中の夢へ続く場面。液体の中の気泡イメージが二重露光で映される。そこに劇伴でタンゴが流れ、南原とその妻−有沢正子(こゝだけの出番)が、ダンスをする。これは突出して面白い画面造型だ。

 あと、プロット展開の難を云っておくと、ラスト近くの、牧紀子が神戸港を歩く場面から続く展開は、ちょっと作劇臭過ぎると思った。その手前のシーンで、牧と南原が、邸の庭のテラスに座り、紅茶を巡るやりとりをし、やゝあって、そこに桂木が何か食べ物を運んでくる、という緊張感溢れる場面があるが、こゝでエンドならいいのにな、図太い終わり方になるのにな、と思いながら見ていた。これは、あくまで私の好みですが。

#備忘でその他の配役等を記述します。

・神戸の邸の女中は浦辺粂子。大阪の旅館の女中で小田切みき

・佐分利の会社関係者で多々良純十朱久雄永田靖らが出てくる。

・大阪の病院の看護婦は石井富子だ。ほとんど顔は映らないが、声で分かる。

・勝浦の旅館の女中は初音礼子。本作は誰一人関西弁を喋らない映画だが、初音礼子さえ例外ではない。

・神戸の邸ではコリー犬を飼っている。名前はジョン。なかなかいい演技をする。

(評価:★3)

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