コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 女医の記録(1941/日)

あゝ素晴らしい!何度も涙目になる。ファーストカットは手書きの地図。各村への医療従事者の派遣の説明。続いて、山道を歩く女医たちを高いところから撮った俯瞰ショットなのだが、これが、ドローンのように、まるで浮いているみたいなショットなのだ。
ゑぎ

 このファーストカットはクレーンを使っているのか。ゆっくり移動やパンもする。彼らの先頭には小学校の先生(訓導)の佐分利信がおり、彼に先導され、会話しながら歩く女医たち−田中絹代森川まさみたちを後退移動で長回し。いろいろと佐分利が説明するが、木に囲まれた住居を映して、家の回りに木を植えるのは、この村の風習だと云う。これは、木の映画なのだ。素晴らしい木のショットがいくつもある。

 最も頻繁に出て来る大きな木は、川の側に2本ある。川の場面では、シーンによってどちらかの木が映る。いじめられている子が登っているのは川に向かって左側。このシーンのロングでは2本とも映る。また、川から村へ続く道は、隧道(トンネル)のようになっている。各家の周囲の木に関しては、衛生上問題があるので、早く伐採しろと佐分利がうるさく指導する。これらの木を伐るかどうかも、作劇上のテーマになる。

 さて、女医らの活動というか診察をなかなか受け入れない2つの頑迷な家がある。一つは体が弱く卒業できなかった(6年生を繰り返している)というミネ−市村美津子の家。ミネの姉のミツ−文谷千代子は、寝込んでいるのだが、姉妹の母親の高松栄子が世間体を気にして、病人なんかいないと云い張る。もう一つが、頭が悪いと皆から云われる平造−横山準(清水作品常連。別名が爆弾小僧)の家。お父さんが腹痛で寝ているが、耳の遠いお祖父さん−武田秀郎が頑固な医者嫌いなのだ。医者よりも、行者(山伏のような祈祷師)−仲英之助を信頼している。ちなみに、平造のお母さんは出雲八恵子で、舅(お祖父さん)の非礼を気にする女性を好演している。こういった因習に縛られた村人たちへの対処の描写が、清水宏らしい暖かい眼差しでずっと描かれていく。カメラワークも清水らしく、屋内でも山道でも、ゆっくりとした横移動ショットが目立つ。このカメラワークも、牧歌的なムードを醸成することに寄与している。

 医療活動や村人への指導は、やはり田中と佐分利で行うシーンが多いのだが、森川が分教場から二里あるという出産したばかりの家へ行き、新生児の名前を考える場面も重要だろう。後半になって、この赤ん坊が肺炎になりかけ、徹夜で治療する場面に繋がる。田中が、あなたが名付け親でしょうと云って森川に注射を打たせる。また、この映画も女医たちや佐分利らの大人のドラマであると共に、たくさんの子供たちが出て来る子供の映画であり、さらに、赤ん坊や乳幼児も重要な役割りを担っている。田中と佐分利が共に赤ん坊を抱いて川岸に立っているツーショットが象徴的だ。こゝは、二人の将来の関係も象徴しているように感じられるが、決して恋愛描写にしないのは時節柄でもあるだろう。ラストカットも赤ん坊が絡む演出だが、清水らしく、ロングショットで、ちょっとドタバタした オチを付ける。あゝこのエンディングも素晴らしい。

#備忘

・女医といってもインターン役だと思うが、槇芙佐子三村秀子の顔が見える。

・講演会の場面にいるお偉方が水島亮太郎西村青児か。顔がはっきり映らない。

・分教場の教壇の上(真ん中)に、西郷隆盛の肖像画が飾ってある。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。