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[コメント] 殺人者たち(1964/米)

ヘミングウェイの原作は、わずか数ページの短篇で、シオドマク版でも映画の冒頭部分だけの元ネタだった(つまり大部分のプロットは創作だった)のだが、このシーゲル版においては、さらに原作の元ネタ部分は縮小している。
ゑぎ

 原作からは、簡単に云えば、2人の殺し屋と、彼らに狙われた男は逃げ隠れしない、という設定だけを借りているに過ぎない。もっと云えば、あとのプロットもシオドマク版とはかなり異なる。ほゞ全体が本作オリジナルと云っても過言じゃないと思う。

 2人の殺し屋については、シオドマク版では、ウィリアム・コンラッドチャールズ・マックグローという当時30歳ぐらいの働き盛りという感じの俳優を使っていたが、本作のリー・マーヴィンは、引退を考えている初老の殺し屋という設定にし、若い相棒のクルー・ギャラガーと対比を効かしているのがポイントだ。というか、そもそも、シオドマク版での殺し屋の登場は序盤だけであり、プロットを牽引するのは保険会社調査員のエドモンド・オブライエンだったが、このシーゲル版では、マーヴィンとギャラガーの2人が、自分たちが殺した男のことを調査する、という役割りを担っており、ラストまで彼らがプロットをドライブするのだ。

 映画冒頭で殺される男に関して云うと、シオドマク版はバート・ランカスター(彼の映画デビュー作)で、原作通り、元ボクサーという設定だったのだが、対して、本作のジョン・カサヴェテスは、元レーサーというかたちに変更されている。どちらの映画も、複数人の証言者の回想シーンで、殺された男の顛末を映像化していく、という構成であり、被害者(殺された男)、本作で云えば、カサヴェテスが真の主人公なのだ。また、犯罪映画の常套として、被害者を破滅に導く「運命の女」が絡むのだが、シオドマク版ではエヴァ・ガードナー、本作はアンジー・ディキンソンがつとめている。私は、美貌という点ではガードナーの圧倒的な勝利だと思うが、ディキンソンとカサヴェテスの関係の方が濃密に描かれている、という感覚を持った。

 2作の比較はこれぐらいにして、本作シーゲル版の良い部分をあげたいと思う。まずは、殺し屋の非情な暴力描写を第一にあげるべきだろう。冒頭の盲学校のシーンでは、事務所にいる盲目の女性に対して、ギャラガーが机上の花瓶の花を抜き、机に水をこぼす、という異常な脅し方をするのが怖いし上手い演出だと思った。続けざまにマーヴィンが、この女性をぶん殴るのだが、これはオフ画面(見せない演出)で処理する。また、後半では、ギャラガーがディッキンソンを思いっ切りパンチし、彼女の頬が赤くなるという場面もある。こゝでは、マーヴィンは、彼女の足を持ち、窓から突き落とすぞ、と脅すのだ。あと、見せない演出ということでは、クライマックスにおけるマーヴィンの銃撃シーンでも、撃たれた人物をオフで処理するという演出がある。これにより、非情さが強調されていると思う。

 そして、カサヴェテスとディキンソンの2人のシーンもよく出来ていると私は思った。例えば、出会いの場面の、レース場をヘルメットなしでぶっ飛ばすシーンや、その後のゴーカートの場面など、スクリーンプロセス合成の上手さは、シーゲルらしいと思う。これを今の感覚で見て、チープな合成と感じるのは仕方がないとも思うが、私は、この手作り感のある幻惑の技術を楽しむべきだというスタンスだ。他にも、ナンシー・ウィルソンの歌唱が聞けるナイトクラブのシーンに続く、ディキンソンの部屋でのラブシーンがクローズアップ主体のカット割りで、とても濃密な演出がつけられている。こゝだけ見ると。凄いメロドラマだと感じられるが、私はこのラブシーンの描写は本作の美点だと思う。

 ただし、ディキンソンと黒幕のロナルド・レーガンの関係については、描き足りない感覚が残る。その影響が、カサヴェテスを翻弄する作劇にも影響しているのだ。それに、本作のレーガンが面白みのないキャラなのは、彼自身の責任というよりは、演出の責任のように思う。あと、こゝまで触れなかったが、冒頭の盲学校のシーンから、全編に亘って、ズームインを頻繁に使うのは、宜しくない点だ。

#備忘でその他の配役などについて記述。

・ナンシー・ウィルソンの歌唱はヘンリー・マンシーニの「Too Little Time」

・カサヴェテスのレーサー時代の相棒(整備士)はクロード・エイキンス

・レーガンの仲間でジムの経営者、ノーマン・フェル。郵便トラック襲撃に参加する、もう一人の男はロバート・フィリップス

・終盤のディキンソンが滞在するホテルのフロントの一人はシーモア・カッセル

(評価:★3)

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