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[コメント] ワンダーストラック(2017/米)

矢張り、どうしても最初に書きたくなるのは、1920年代と1970年代のNYの街並みや、人々のファッション等の再現の部分だ。
ゑぎ

 こういったノスタルジーの造型については、トッド・ヘインズのトレードマークのようになりつゝあるのだが(という意味で、ありきたりに指摘するのもはばかれるのだが)、しかし、本作では、この50年を隔てた時間と空間を見事に交錯させてクロスカッティングで繋いでおり、なんとも驚きに溢れた場面の連続なのだ。それにしても、1977年のNYの再現は見事な画面だと思う。

 また、一方で全体的な演出の基調は極めて繊細であり、ローキーの画面と光の扱いの豊かさにも溢れている。光は雷、流れ星、マグライトの光、人工的な摩天楼の夜景等バリエーション豊富にモチーフとして使われる。さらに1927年の場面では、映画中映画で「嵐の娘」というタイトルの、まるで、リリアン・ギッシュの『』のようなサイレント映画が挿入されるのだ。(映画は光である)

 そして、もうひとつ指摘しなければならないのが、これは聾者の映画である、ということで、1927年はローズという聾唖(と思われる)少女が、1977年はベンという聾(といっても途中失聴)の少年が主人公だ。この描き分けは、ローズのシーンは全てモノクロで、また彼女が唖者でもあるので、劇伴もサイレント風の無声映画であり、ベンの部分はカラーだし、ベンを含めて登場人物はトーキー映画として声を出すのだが、特にサイレント部分の少女の顔・表情の演出には唸らされた。例えば、街中で男に劇場への道を聞いたときのローズの顔演技、そのいかにもサイレントっぽい表情のディレクションなど。

 あと、付け足しのように書いてしまうけれど、1977年のシーンでかゝる、リヒャルト・シュトラウス「ツァラトゥストラはかく語りき」(2001年宇宙の旅)をフュージョンアレンジした曲の使い方がなんとも幸福な気持ちにさせるのだ。エンドクレジットのモノクロの手話(指文字)の画面も美しい。

(評価:★4)

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