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[コメント] ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画(2013/米)

極めてライカートらしいサスペンス映画。もっとも、他のジャンルに分類されるライカート作品においても、ほとんどサスペンスと云っていい緊張感のある画面造型が横溢していたのだから、何を撮ってもスリリングなことこそが、その特質と云うべきか。
ゑぎ

 ただ、本作は人気俳優3人が使われているということもあって、もう少しハデな演出も見せてくれるのではないか、という期待もあった。しかし、いつも通りスロースターターではあるが、必要最小限の説明しかしない(あるいはそれもしない)描写や、見せる順番の周到さ。あるいは一見不要にも思える不穏なミタメショットの挿入(例えばラストカットのミラー)などで、サスペンス映画としても上出来の作品に仕上がっている。

 開巻はダム。噴水にように水が噴出する。それがだんだん強くなる。ジェシー・アイゼンバーグが見る。俯瞰でダムのショットを挟み、ダコタ・ファニング。通路を歩く2人。フォードのピックアップトラックで出発する。続く場面は、モーテルかキャンプ地のバンガローか?と思ったが、この場所は終盤で再登場する。唐突に女性の裸。入浴シーンを繋ぐ。次に少年の自転車を後ろから追うショット。鳥の巣を杉の苗木の枝に置くアイゼンバーグ。彼の性格の一端を示していると思う。環境問題のフィルム上映会の場面になり、キャサリン・ウォーターストンの顔も見える。アイゼンバーグとファニングもいて、彼らの志向の対象が分かるけれど、2人の表情から、他の人々と微妙に意見が異なっていることも伝わって来る。他の人々よりも、過激なのだろうと。

 さて、邦題の副題は中盤までの謎のネタバレだと思うが、アイゼンバーグとファニングはピーター・サースガードと合流し、ダムの爆破を計画実行する、というのがメインのプロットだ。まずは、サースガードがいるアジトへ向かう夜のシーンで、妊娠した鹿の死体と遭遇するのが不吉な予感。彼らの爆弾準備シーンは、森の中のアジトで行われるので、こゝもライカートらしい緑の画面が溢れるが、土で汚れた手を見るアイゼンバーグのミタメのショットも不穏だ。3人ともだが、特にアイゼンバーグが全編通じて、ニコリともしない、ずっと厳しい(時に悲しい)表情をしている、というのも本作の基調のムードを醸成する。また、ダムの爆破の見せ方も(こゝで詳しくは書かないが)、極めてライカート映画らしいと思う。

 そして計画実行後のシーケンスこそが、この映画のスリルの見せ場となるワケだが、まずは、ダムから自動車で逃走する途中、検問に合う場面で、フロントガラス越しにアイゼンバーグとファニングの長い2ショットを挟んだ後の、車から降りる足が泥だらけ、なんてところは普通に上手いと思う。他にも、ファニングの首から顎にかけて赤い発疹ができている見せ方。そして、冒頭に出てきた温泉場のような場所が再登場する夜のシーン。こゝでは、凄いスチームの中でのエクストリームなクローズアップがある。この場面はライカートにしては、ちょっと通俗的な演出にも感じた。

#原題は、ダム爆破に使うボートの名前。あるいは、夜、活動する主人公たちを表していると思われる。邦題を考えた人たち(あるいは組織)は余程の皮肉屋の集まりかと思う(皮肉です)。

(評価:★4)

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