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[コメント] 暗黒の旅券(1959/日)

アバンタイトルは、ずっとディゾルブ繋ぎだ。ファーストカットは、トロンボーンのベル部分。バンドの演奏が始まる。トロンボーン奏者は葉山良二で主人公。歌手は沢たまき。その横顔がディゾルブで繋がれる。綺麗だし歌もなかなか聞かせる。
ゑぎ

 演奏後、クラブの支配人か、闊達な司会の口上があり、葉山と沢の結婚が発表される。バンドのマネージャー(多分)の梅野泰靖からプレゼントの旅券の進呈。こゝまでずっとディゾルブで繋ぐのだ。これがすこぶる良い調子で、この調子なら傑作に違いないと思わせられるオープニングだ。

 クレジット後は東京駅のホーム。見送りの友人たちの中に、バンド仲間の岡田眞澄はいるが、梅野がいない。沢が先に列車に乗り、やゝあって葉山が乗ると、沢は消えている、という展開だ。葉山と岡田で沢の行方を捜すが、その夜、沢は赤坂の新居で死体になって発見されるのだ。アバンタイトルの沢がとても綺麗だっただけに、このあっという間の退場は、勿体ないと思ってしまった(終盤にフラッシュバックでワンシーンだけ再登場する)。

 というワケで、こゝから本作は葉山による探偵物語になる。当然ながら警察はまず葉山を疑うが、彼を泳がすことで、真相に辿り着こうとするようになる。警察側には芦田伸介の警部、部下に土方弘宮崎準がいるが、宮崎が葉山の家にずっといる(留守番みたいにしている)のが不思議な設定で、彼が葉山と岡田にコーヒーを淹れてくれたりするのは、シュールでさえある。

 さて、もう梗概から離れて清順らしさを上げて行こうと思う。最初に記したいのは、新橋のバー「壺」のシーンで、こゝはママが白木マリ、バーテンダーに深江章喜、という布陣だが、謎の女、筑波久子の登場シーンでは、普通でない変な繋ぎが見られるのだ。店内の簾(すだれ)のような仕切りを挟んで、葉山と筑波を左右逆方向に動かして繋ぐ。また、店の前の通りにある公衆電話ボックスの場面で、窓の向こうの葉山と花売り娘が会話する、という部分があるのだが、娘が背が低くて画面に映っていない(カットの最後になって映る)のも変だ。

 あるいは、事件の黒幕かと思われる、芸能プロモーター−近藤宏のマンションに葉山が訪れた際にも、何故か筑波がいるのだが(中盤は、葉山が行く先々で筑波が現れる)、この場面におけるダックスフンドの見せ方−上の花売り娘の演出にも通じるようなオフの演出−も面白い。そして、真の黒幕、フランクの邸宅を舞台にした、クライマックスのアクション場面では、岡田真澄がその実兄のE・H・エリックに入れ替わって登場する、というような離れ業も見せてくれるのだ。これは多分、何かのっぴきならない事情があったのだろうが、清順らしい冗談にも思われてしまう。

 尚、筑波久子は、冒頭クレジットでは、葉山と二人で一枚に出るという扱いで、中盤もプロットを引っ掻き回す良い役柄なのに、わりかし早く退場してしまう。彼女を運命の女として描き切れていないのは、私は不満に思う。あと渋谷の「チドリ」というバーにいる男の子たちの描き方が興味深い。皆、同じようなルックスで区別がつかない、というのはどうかと思うが、フランクとケニーの関係がラストまでプロットをドライブさせる展開には、独創性を感じる。

#備忘でその他の配役等を記述します。

・葉山や岡田のバンドの名前は「レッドガーターズ」。レッドガーターズが出演しているクラブは「オーロラ座」。葉山に協力してくれるオーロラ座のホステスは東谷暎子

・近藤宏に雇われる殺し屋で榎木兵衛。葉山を拉致する二人組は上野山功一野呂圭介だ。短い出番。

・黒幕フランクを演じるのは『殺されたスチュワーデス』のダニエル修道士。

(評価:★3)

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