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[コメント] ホールド・バック・ザ・ドーン(1941/米)

パラマウントスタジオの玄関。シャルル・ボワイエが入って行く。見学者に紛れて中へ。スタジオ内には、ブライアン・ドンレヴィがおり、ベロニカ・レイクが撮影中だ。
ゑぎ

 ボワイエは、映画監督(ミッチェル・ライゼン本人)に、面識があり、自分の話を売りたいと交渉を始める。こゝから回想に入る、という出だし。

 LAの南、メキシコ側国境の町。ルーマニアから来たボワイエは、メキシコ経由で米国へ入国するつもりだが、手続きに5〜8年待たされるということを知る。まず、入国待ちの人々が滞在しているホテルの風情がいい。外観の小さなクレーン移動。ロビーと階段。上階の廊下。きめ細かく見せる。

 7月4日(米国の独立記念日)のお祭りの日。LAから遊びに来たスクールバスの生徒たちが爆竹で悪戯をする。ボワイエは教師のオリヴィア・デ・ハヴィランドに文句を云う、というのが二人の出会いのシーン。スクールバスと別れて入ったバーで、今度はかつてのパートナー、ポーレット・ゴダードに再会する。ゴダードは、現在は米国に住んでいて、米人と結婚すれば、4週間で移民できると教える。というワケで、ボワイエがハヴィランドへアタックし、首尾よく米国へ入国することができるか、というプロットが始動するのだ。

 経緯の仔細は伏せておくが、案外簡単に、ハヴィランドはボワイエに夢中になる。本作のプロット展開の焦点は、ハヴィランドをいかに落とすか、というところにはなく、ボワイエの魂胆を見抜いている米国移民局のウォルター・エイベルをどう出し抜くか、という点にある。しかし、ボワイエに口説かれ、メロメロになったハヴィランドの可愛らしさも大きな見どころだ。

 移民局のエイベルを避けるため、雨の夜、二人が自動車(スクールバス)で旅に出てからの一連のシーンがとてもいい。翌日、小さな村の、カップルを祝福するお祭りに参加する。オリーブの木を揺らせ、落ちた果実の数が子供の数という伝説。その夜、スクールバスで一緒に寝るはずが、ボワイエは左腕を脱臼したと嘘をつく。米国へ移民できれば、ハヴィランドを捨ててしまうつもりなので、関係は持ちたくない(こゝで関係すると、可哀想)、という気持ちからだ。後部座席で一人寝るハヴィランドが、バックミラーに写る。

 そして、本作の白眉は、町に帰ったハヴィランドとゴダードとの対決シーンだろう。毅然としたハヴィランド。オスカー・ノミニーも納得の素晴らしさだ。いや、この年は『断崖』のフォンテインが獲得しているのだが、姉妹対決という点で云えば、本作のハヴィランドの方が、今見ると(それは映画的にという意味で)順当のように私には思える。

 尚、原題は「夜明けを迎える」もしくは「夜明けを遅らせて」といったニュアンスの意味になると思うが、自動車の中で夜明けを越して朝を迎える、といったシチュエーションが何度もある映画なのだ。そこには、何とも切ない感覚も込められている。ミッチェル・ライゼンの演出も第一級だ。

(評価:★4)

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