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[コメント] 暁の追跡(1950/日)

街の大俯瞰。列車が走る。新橋。本作は新橋署の警察官、池部良が主人公だ。新橋駅前(汐留側)の派出所に勤務している。
ゑぎ

 池部の同僚には水島道太郎伊藤雄之助田崎潤柳谷寛らがおり、柳谷の事情(子供の急病)に同情した池部が夜勤を交代してやったことが遠因となって、麻薬密売の容疑者を轢死させてしまう、というのが冒頭シーケンスだ。長時間労働で注意散漫になっていた池部が、容疑者・舟木−長浜藤夫を逃がしてしまい、高架線路に追いつめるが、舟木は列車に轢かれてしまう。

 この後、追いかけさえしなければ、と後悔している池部。これにはとても違和感を覚えるが、それはそれとして、厳格な組織論を重んじる水島と、人情家の池部を対比させて描く(会話させる)部分は、理屈っぽくて好きになれない。

 あるいは、池部が、死んだ男・舟木の家へ訪れる場面。場所は月島。舟木の妻は北林谷栄だ。これがのらりくらりした科白回しで面白い造型。ただし、ちょっと突出し過ぎた個性にも思える。また、こゝで唐突に出現する舟木の妹−野上千鶴子が、激昂して、池部の持参した土産(果物かご)を蹴る、というのも、ちょっとやり過ぎの演出だろう。まったく市川崑らしいと思ってしまう。

 また、なんやかんやあって(屋上訓練でのピストルの点検場面、労働争議の暴動鎮圧、伊藤雄之助が後輩の腕を誤射してしまい免官になる事件など)、池部が警察官を辞めたくなる、彼の退職の意志がプロットの焦点になる。池部には杉葉子演じる恋人がおり、彼女も警察を辞めることには賛成なのだ。

 さて、特記すべきと思うシーンを書いておく。まず、池部と杉の場面では、序盤の海水浴場(由比ヶ浜)のシーンがいい。杉の方から、結婚しない?と冗談めかして云う。池部が杉の足を引っ掛けて、杉が転ぶショットが面白い。あと、撮影は全般に縦横自在によく見せて、この部分では楽しい映画だ。例えば、伊藤がトランぺッターに転身し勤めることになるブルークィーンというクラブの導入シーンで、ティルトしながら上から下にワイプし、笑う清川荘司(クラブのマスターか)にドリーで寄るショットだとか。派出所の外を移動して見せるショット、新橋署の柔道場がある階段踊り場で、窓の向こうの警官たちが見えるショット。

 そして、タイトルを表す午前3時から始まる麻薬組織のアジト(深川あたりの設定)殲滅作戦のシーケンスも見応えがある。橋(清州橋か)を映しこんだ絵面がカッコいい。いきなり警官が3人撃たれる演出にも驚かされる。ラスボスは富田仲次郎で、彼はマシンガンをぶっ放す。逃げる男たちを追跡する池部や水島。逃げる富田をコマ落としで見せる繋ぎは好みではないし、いきなり登場する包帯の男・八郎−江見渉の扱い(鎖で首を絞められる)は面白いが、違和感もある。またこのシーケンス、早朝の時間ということで難しいことは分かるが、ショットによってルック(露光)がバラバラなのも気になるけれど、エンディングのクレーンショットはいいと思う。

#備忘でその他の配役等を記述。

・新橋署の管理職や刑事たち。池部らの直属上司は三原純。他のお偉いさん(警部・警部補クラス)で久保春二菅井一郎石黒達也がおり、窓口の警官は、藤原釜足。事件を捜査する刑事で島田友三郎岩宮忠三郎(麹町のシーン)。

・杉葉子の家は珍々亭という飲食店。オヤジさんは高堂國典。北林らが住んでいる月島の家の大家さんに中村是好

・冒頭近く、池部の顔を舐める酔っぱらい役は若月輝夫。脚を撃たれて警察を辞めたOBに清水元(洋服の行商で派出所に来る)。バーで男が暴れていると、派出所に云いに来る女給は三条利喜江

・麻薬組織の下っ端で池部に捕まった銀次郎(バーで暴れた男)は西川敬三郎。麹町の捜査・聞き込みシーンで出て来る老人は横山運平

(評価:★3)

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