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[コメント] 桃の花の咲く下で(1951/日)

ファーストカットは、笠置シヅ子が子供たちを引き連れて唄いながら道を歩くショット。服部良一らしい明るい曲だ。ジュディ・ガーランドの裏庭ミュージカルみたいと思う(『青春一座』なんかを想起)。
ゑぎ

 しかし、このファーストカットが紙芝居の人寄せとは思わなかった。2カット目は、路地の向こうで紙芝居の木枠を前にして唄う笠置と集まった子供達に、極めてゆっくりとドリーで寄っていく長回し。笠置の紙芝居は歌入りで、ワンコーラス唄って、チョン、と云い、科白やト書きを喋る。この紙芝居シーンは、全部いい。本作の良さとして、後半の温泉場に場面が移ってからのシーケンスをあげる人が多いのもよく分かるけれど、私は、前半の紙芝居シーンの楽しさが本作の最大の魅力だと思う。

 前半は、紙芝居の先輩たち−大山健一日守新一との縄張り争いと、笠置の現況及び境遇について若干端折って描かれる。笠置はアパートで一人暮らしだが、息子がおり(映画冒頭では足を怪我して入院している)、息子は父親−北沢彪とその妻−花井蘭子のもとに預けている(「預けている」という風な科白があったと思う)。この笠置、北沢、花井の3人の、経緯を含めた関係もちょっと複雑だし、きちんと説明されないので推測するしかないが、笠置は北沢のことを元恋人のように云うので(別れた夫とは云わないので)、結婚せずに生んだ子と2人で暮らしていたが、子どものためを思い、父親の北沢(及び後に彼が結婚した花井)に引き取ってもらったということなのだろう。しかし、この3人の現在の関係は良好で、花井が全編通じてとても優しい人物に描かれているのも本作の良いところ、清水宏らしいところだと思う。また、本作の花井はとても若々しく、前年の『細雪』のときよりもずっと綺麗に見える。

 そして、後半は、足を怪我した息子の湯治のシーケンスとなり、舞台は山間の温泉場になる。こゝからは、はっきり云って『按摩と女』や『』、特に『』のモチーフの焼き直しっぽくなるのだが、しかし、やっぱり清水宏らしさの良く出た、自然をバックにした悠揚な画面が快いことこの上ないのだ。こゝでは、前半で紙芝居の先輩だった(笠置の人気に勝てずに郷里に帰った)日守新一が按摩として再登場し、笠置の息子の足が治るまで、ずっと面倒をみるという、とても良い役だ。そのリハビリ(歩行訓練)のシーンは、川の浅瀬の水面近くに板をかけた橋や、神社かお寺への石段を使って行われる(『』の笠智衆の焼き直し)。中でも、橋の上にいる人物や、岸辺にいる人物の間で行われる切り返しの画面や、そのロングショットには陶然となる。

 あと、笠置は温泉場で息子のためにセーターを編んでいたのだが、その毛糸の玉が、前半で花井が息子のために買ってきた大きな柑橘系の果物(ザボンと云ったと思う)に見事に呼応する作劇も特記したい。いずれもほゞ同じ大きさの球形であるという相似性に唸る。また、エピローグは、単純なハッピーエンドではない、複雑な感興を残すものだが、花の咲いた桃の木の下、及び多摩川の土手上を左から右へ移動しながら、土手の桃の木を映すというかたちで、タイトルをきちんと実装具現し、充足感は高い。カラーなら濃いピンク色の花が見られたのになぁと嘆息する。

#備忘でその他の配役等を記述します。

・紙芝居協会の支配人のようなお偉いさんは鳥羽陽之助だ。

・アパート管理人は柳家金語楼。顔をクシャッとする芸。笠置が「気色ワル!」

・アパートの隣人で火の熾った炭を貸してくれる花岡菊子。清川虹子かと思った。

・紙芝居を見に来た隣人の伊達里子に日守が元按摩だと云う。女性の進出を嘆く。

・怖い先輩−大山健一は、家では子沢山の優しい父親だった。妻は堀越節子

・温泉宿の隣の部屋には清川玉枝。孫を連れて長逗留している。

・ロケ地も『』と同じかと思い、『』の橋や石段の場面を確認したが、どうも異なるよう。

(評価:★4)

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