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[コメント] 港の日本娘(1933/日)

1938年に26歳で亡くなった及川道子の出演作は、今では多くを見ることができないので、そういう意味で、本作が残されていることは映画の幸福と思う。エンディングも横浜港の場面で、彼女がタイトルを実装する。
ゑぎ

 港の風景。パンニング。丘の上をセーラー服姿の女子2人、及川道子と井上雪子が歩く。丘から船を見る。横浜の風景だ。そこへバイクの青年、江川宇礼雄がやって来て、及川を乗せて走って行く。木の間からのロングショット。この冒頭は、清水宏らしい伸びやかで開放感のある画面に溢れている。しかし、こゝに沢蘭子が投入されて、プロットに影が差す。前半のハイライトは、並ぶ自動車の前を歩く及川を横移動で見せ、教会内の席の移動ショット、教会のドアを背にした及川へのポン寄り、ピストルを持った及川のポン引きを繋ぐ、動的なカッティングの連打だろう。

 中盤以降も、最初の3人、及川、井上、江川の関係が描かれるが、及川は酒場女(というか酌婦、娼婦)に身をやつし、対して、江川と井上は結婚して家庭を築いている。及川が働いている酒場のシーンの横移動ショットや、江川と井上の家での屋内ドリーなど、相変わらずカメラは縦横無尽によく動く。また、何と云っても、及川の部屋のドアをはじめとする、ドアの演出の頻出は、本作の大きな特徴だろう。江川が及川を訪ねて来た場面。部屋のドアの向こう(部屋の中)で、斎藤達雄が料理をしているカット。及川の同僚の、逢初夢子が足抜きするつもりで旅立とうとするシーンで、ドアを開けると前に男二人がいる演出。あるいは、斎藤が追い出される場面でのドア。そして、夜、及川が江川を捜して、いくつかのバーを訪ね歩くシーンでの、ドアを開けて店に入る及川のカットの反復など。

 というワケで、本作は及川道子が純然たる主役であり、セーラー服の女子高生と、退廃的なの酒場女(終始着物姿)という振り幅の大きな2つのキャラクターを演じていることもあり、彼女の魅力を堪能することができる作品だ。

(評価:★4)

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