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[コメント] 河口(1961/日)

冒頭は沼津駅前。喪服姿で歩く岡田茉莉子を横移動で見せる。葬儀に行こうかどうしようか、みたいな岡田の独白ナレーションが入る。タクシーに乗り、有名な浜(千本浜)に行くかと迷うが、結局、お寺へ向かう。
ゑぎ

 滝沢修の遺影。焼香する岡田。滝沢の科白がヴォイスオーバーで入り、フラッシュバック。岡田が滝沢と初めて会った日、妾になる日の回想だ。この場面は、滝沢の部下の(番頭のような)山村聡が紹介される場面でもある。この時点で山村は、ワイシャツの襟が上着に押されて跳ね上がっている。この絵面が、以降なん度も出て来る。また、ちょっと前屈みで、ひょこひょこ歩く。本作の山村のキャラ造型は、ちょっと他で見たことがないものだ。あと、一旦、冒頭の時間軸に戻り、喪服姿で千本浜を歩く岡田のシーンを挿入後、すぐに再度回想に入るのだが、終盤で、この千本浜の場面に戻らない(回想開けのシーンが無い)、という本作の構成にも呆気に取られる。

 さて、本作のメインのプロットは、年老いた滝沢と別れた岡田が、山村を相談役として銀座で初めての女画商(画廊の主人)になるというものだが、経営者としての成長譚というよりは、岡田と3人(山村を入れれば4人)の男性との関係に焦点をあてて描かれている。一人は大阪の実業家で東野英治郎。二人目が貿易商の杉浦直樹。岡田にとって東野はほとんど出資者としての金目当ての男で、杉浦には真剣に惚れているよう見える。中盤は、この2人と同時進行する関係性の描写が面白い。特に、銀座の喫茶店(イーストサイド)で杉浦を待っていたら、東野がやって来て、遅れて杉浦が来る、という鉢合わせのシーンなんかがケッサクだ。尚、別シーンだが、ホテルのロビーで東野が灰皿にぶつかって灰をぶっちゃけるシーンが2回繰り返される、というような明確なコメディパートもある。

 そして、3人目の男が建築家の田村高廣だ。もともと山村の知人(というか世間的にも有名人のよう)で、山村もとても認めている人物。田村の前で、山村は常にぺこぺこする。岡田は田村と接近するにつれて、杉浦への感情が偽物だったことに気づく。しかし、田村には病身の妻がいる、さてこの2人はどうなるか、という展開になっていくのだ。

 ではあるのだが、しかし、本作の一番面白い部分は、やはり、岡田と山村の関係だろう。実は、私はこの2人が男女の関係か、それに近いかたちになることを期待して見ていたのだ。その結果は一応伏せておくが、基本的に常に山村は岡田の相談役という位置づけで、岡田は男性関係についても山村には何でも喋り、山村は歯に衣着せず意見する。この関係が面白い。そんな中で、岡田が画廊の2階でソファに座ってウイスキーを飲み出し、山村に脱いだパンプスを揃えさせる場面が、脚フェチの私としては、タマラン良いシーンだと思った。ソファの上に崩した岡田の脚を見る山村のショット。そのちょっと狼狽える表情。

 終盤のプロットの焦点は上でも書いた、岡田と田村の恋の行方なのだが、それ以上に、山村が一人で参加する絵画買い付けのためのオークション場面における山村の感情の昂進ぶりに、私も興奮してしまった。本作は少々いびつな構成を持った作品だとも思うが、この畸形の感覚が私には得難い面白さだと感じる。尚、ラストは大阪の場面であり、タイトルの河口は、直截的(画面的)には、大阪湾へ流れ込む淀川か安治川あたりを指している。

(評価:★4)

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