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[コメント] 細雪(1950/日)

導入部は大阪の街の大俯瞰。中之島の風景などが映る。続いて上本町にある旧家の玄関の少し高い俯瞰。山根寿子が歩いて来て入って行く。
ゑぎ

 山根は三女・雪子。こゝから、家屋の中の彼女を追うのだが、屋内でも少し高いカメラ位置。山根は家人に帰宅の挨拶をするが、その返事はオフで女性の声。声の主はもう少し山根のカットを繋いだ後に、書き物をしているロングショットでそっけなく映る。これが長女・鶴子の花井蘭子だ。おもろい演出ではないか。

 この導入部を見た時点で、矢張り、本作でも原作通り三女・雪子を中心に描くのだろう(かつ、長女・鶴子の出番は僅少だろう)と予測させるものだと思う。次女・幸子−轟夕起子と四女・妙子−高峰秀子の登場も、雪子−山根が芦屋の幸子−轟の家を訪ねた場面で、2人同時にこれもそっけなく画面に映るのだ。しかし、山根も加わって3人で轟の帯を選ぶこのシーンは愉快なシーンになっている。こゝもそうだが、全編に亘って屋内でのアクション繋ぎが結構ある。座っていて立ち上がる、といった動作で繋ぐ場合が多いが、ほとんど何の動きもないのに、ポン寄りのように繋ぐこともある。その都度、息を呑むような感覚になる。

 といった具合で全体にとてもかっちり作られていて安定感抜群ではあるのだが、原作や他の映画化作品(あるいはそのキャストなど)と比べて難を指摘したくなる部分はあるとは思う。高峰に絡む2人の男性の配役は私は悪くないと感じるし、特に奥畑のケイぼん役の田中春男は、はまり役と云っていいと思うが、もう少し良いルックスを期待する向きもあろうかと思う。もう一人、写真家の板倉−田崎潤も、二枚目で通すのかと思っていると、急性中耳炎で入院した場面での七転八倒ぶりが異様過ぎて、トンデモ場面になってしまった(私はこゝも面白いと思うけれど)。変な場面ということでは、雪子−山根の2回目の見合い相手−小林十九二が、見合いの席で不自然な独り言を繰り返す演出は、もっと面白くすべきじゃないかと感じた。こゝは島耕二版の船越英二の方がずっと面白かった。

 そして中盤以降は妙子−高峰が俄然目立ち始める。この論点については少し書いておきたくなる。姉妹の中で、高峰一人がほとんどの場面で洋装である、あるいは、自立した職業婦人を目指している、後半は酒や男に溺れたりし、汚れ役の側面がある、質実と華美(贅沢)との葛藤を明確に体現する役である、といった様々な面で、彼女が目立つ扱いであることは確かだろう(だから尺もとられている)。いやそんなこと以上に、この時期の高峰の美貌が輝くばかり、ということの方が大きいかも知れない。高峰の多分唯一の和服姿、舞いの披露会の場面の美しさたるや。

 対して、原作の主人公(タイトルの「雪」を表してもいる)雪子−山根の扱いについて。大人しくてはっきりとものを云えない性格で、環境的な不運もあり、何度見合いをしても上手く行かないといったキャラクター。見合い相手からの電話に出て慌てふためくシーンなどでもそれは強調されている。しかし、終盤で高峰のことを轟に話す場面では、コイさん(高峰のこと)、やっぱり気が弱いお嬢さんやと思うわ、と冷静に分析する。また、私は本作における最も衝撃的なシーンは、山根が高峰に面と向かって、あたしかて板倉みたいなもん弟に持つのんは叶わんわ、というような科白を吐く部分だと思う。本作においても決して雪子−山根は弱いばかりではない、芯の強さが描かれている。山根だって美しい時期だ。一見、高峰が目立つというのは確かだが、やっぱり山根の主人公説も有りだと思う。

#備忘でその他の配役等を記述します。

・長女・鶴子の夫−伊志井寛。次女・幸子の夫は河津清三郎。上本町のシーンで序盤と終盤に出て来る古い使用人の音やんは杉寛

・見合いの話を持ってくる陳場夫人は千明みゆき。その夫は鳥羽陽之助

・板倉の妹に香川京子。父親は横山運平で母親は本間文子(本間敦子)。奥畑の婆や−浦辺粂子

・終盤の雪子の見合い相手は藤田進。バーテンダーの三好は堀雄二。2人は特出。堀はワンカットのみの出番。

・他の映画化作品は、1959年の大映・島耕二版を見ており、1983年の市川崑版は未見の状態でこれを記しています。

(評価:★3)

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