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[コメント] 四川のうた(2008/中国=日)

中国共産主義体制への挽歌と、それに伴う様々な人々の生活の激変。今、中国は確実に、緩やかに変貌を遂げようとしている。それを明らかにする一編の静かなる叙情詩である。
水那岐

四川にある巨大軍需工場の没落と変遷。それを幾人かの俳優と、そして名もなき多くの工員と工業都市の人々を通じて描く。それはあくまでも淡々としており、変化は細かな出来事の集積として現わされる。

ここで山口百恵を引き合いに出さずとも、劇伴音楽が猛々しいイデオロギー・マーチからポップス、ロックに変質していく過程はそれを確実に形付けている。人々は或いは文化大革命当時に使命感に燃えて入社したものだったり、夢から覚まされて諦めの境地にいるものだったり、また入社したものの単純作業の虚しさに早々に尻をまくった青年であったり、或いは労働者の親達を見て育ち、自分は彼らのように消費される人間になりたくないと上海や香港での自由な暮らしを選ぶ娘だったりする。

これは即ち中国の縮図だ。いつの間にか遠く離れていた友人が、自分の傍らにいきなりいることに気づいたような感慨がある。というか、それは頭ではわかっていたことにしろ、図示されて強く心に叩き込まれたような想いだ。

中国はまだまだ変わってゆくのだろう。我らの前に、これからどんな姿で立ち塞がってくるのだろう。それは恐怖であり楽しみでもある。それと同時に、この変貌に堪らない悲しみを覚え、それをいつまでも記憶していたいと願う人々の思いも、又我々が覚えておくべきことなのだろう。

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