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[コメント] 突入せよ! 「あさま山荘」事件(2002/日)

重いテーマにも拘らず、ユーモアと迫力の突入シーンで観客を堪能させる見応え抜群の娯楽作。それでいて警察の英雄的行為を称えるだけの映画ではないのは嬉しい。
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 この映画は予め「この映画は実話を基にしたフィクション〜」という表記が出される。『KT』のレビューにも同じ事を記載したのだが、この表記があることで、事実を以下に忠実に描くかよりも、いかに映画的に魅せるかに注意が行く。予め、わざわざフィクションであることを観客に断るわけですから。この映画はそう断った上で、テーマは難しいのにも関わらず、敢えて特殊な語り口で語り、エンタテインメント映画としてしっかりまとめてきている。

 上に特殊な語り口と書いたが、この題材でユーモアを交えて語るとは正直驚くべきことだ。連合赤軍=テロリストを扱った映画なだけに真摯な内容を想像しがちだが、始まってしばらくすると自分の口からは笑みがこぼれていた。「ちょっとあさま山荘行って来いや」と軽い感じで始まるし、佐々があさま山荘についてからは警視庁と長野県警の飽きれるような対立。言い争いの内容がまるで幼稚なのだ。信号灯の発火ミスでトラブルになるし、電線を"切る"の意味を間違えるし、会議中キャラメルをくちゃくちゃ食べるし、食事中にうんこが出たか出ないかといった事を話している。天気が悪いので突入を一日見合わせようとすると、佐々の口からは「2/29じゃ、4年に一度しか命日が来ないじゃないか!」と作戦決行を固持する。などなど、様々なユーモアが含ませている。一見、軽く見すぎだと批判の対象にもなりかねないような感じだが、このユーモアが逆に警察官達の人間臭さを出している。あの現場だって笑いが全く無いなんてことないだろう。さらに現在、警察による不祥事が報道されるが、こういったいかにも日本人らしい曖昧な警察官を描いてユーモアを交えることで、それが現在の警察に対する風刺にも思えた。原田眞人監督は脚本も担当しているが、面白い視点で脚本を書いたと思う。在日韓国人をテーマにした行定勲の『GO』にしても、重くなりがちなテーマをポップに描くことで成功していたが、重いテーマでも、硬く描けば良いというわけではないと実感できる。

 中盤までユーモアたっぷりのやり取りを堪能したのだが、終盤見せ場となる突入シーンの迫力にも驚いた。混沌とした雰囲気が非常に良く感じられた。魅せるためにスローモーションが投入されたりと、決してドキュメンタリーのようなリアルさではないのだが、現場の人間も状況が理解できなかったりといった混乱や現場の臨場感があった。正直、最近の日本映画がここまで迫力のあるシーンを撮れるとは思っていなかった。邦画の大作は質の低いものが多いが、この映画に関しては大作だからこその魅力がしっかり存在していた。突入シーンはかなり長く時間を使って描いていたが、退屈もせず、気持ちも高ぶり、見応えを感じた。さすがに最後、人質が救出されたのを見たときは、救出されることは周知の事実だが思わず感動してしまった。

 娯楽作品として完成度が高いのだが、アメリカ万歳映画のように英雄的行為を称えるだけの映画ではないと思う。確かに、警察の努力やそれへの目配せは映画の中から伺えるし、素直に佐々の行動を格好良いと感じたりもする(役所広司だし)。警察の視点から描くことによって、警察の勇敢な行為を持ち上げるだけではという懸念はあったが、心配には至らなかった。警察に関しては行動を称えると共に、上にも書いたがユーモアによるアイロニーも存在した。それに、この映画は警察云々よりも、人間の物語だ。佐々の家に帰ってからの様子なども見ても、人間としての警察官の姿がある。あさま山荘における警察の活躍を大げさに称えただけの映画ではないので、プログラムに掲載されている石原都知事の発言なんかは的外れな気がする。

 自分はあさま山荘事件の10年後に生まれたので、生中継で事件を見た世代でもない。両親などから話に聞いて漠然と知っている程度だ。この事件は生で見ている人々がいるわけだし、歴史的に見ても非常に大きな事件なので映画化が難しかっただろう。それをここまでしっかりと、娯楽映画として魅せたのはスゴイと思う。

(評価:★4)

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