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[コメント] 恋の門(2004/日)

映画☆4、酒井若菜☆100、間を取って☆52。
Myurakz

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 映画が始まって最初に観せられたのが、監督/脚本松尾スズキの言葉の選択のセンスと間(ま)の上手さでした。鳥のフンなんていう100年前でも古びていたであろう下らないシチュエーションを、「フンじゃないか!」という堅苦しい口調ときれいな間で、キチンと笑うことのできるシーンにまで持っていっている。この語彙や間はやっぱり芝居で培われてきたものなんだろうな。こと笑いに関して言うなら、生で観る喜劇芝居が持つ爆発力というのはかなり凄まじいものがあり、それはやはり舞台という限定された空間で研ぎすまされていく語彙と間のパワーだと思うわけなのです。そんな世界で名を為すに至った松尾スズキだけに、今作ではその空気を非常に上手に映画という異ジャンルに持ち込んでいます。正直映画という世界においてはちょっとオーバーアクションで嫌味に感じる笑いだから、その臭いが嫌いな人もきっといるだろうとは思うんですが、僕自身はこの冒頭のシーンに自分の好きな匂いを感じ、「これなら乗れそうだ」と少し安心をしたんです。

 でもですね、そんな感じでウヒャウヒャと笑いながら観るうちに、その笑いの一要素に過ぎないはずである酒井若菜が、どんどんとその存在意義を大きく大きくしていくのを感じ出したんです。笑いというスポンジケーキの上に乗ったクリームである酒井若菜のはずだったのが、次第にクリームの海にスポンジが浮かんでいるような感覚に陥っていくわけですよ。そう、僕は酒井若菜の「恋の門」をくぐってしまったのです(上手いことを言ってやった気満々で)。

 だからもう松尾スズキとのキスシーンとか風俗勤め発覚とかもうイヤでイヤで。物語的にイヤとかじゃなくて、素でイヤなんですよ。でこれがイヤであればあるほど、自分の気持ちが松田龍平に乗っかっていってしまうわけです。もうこれは普通に酒井若菜の良さが映画を一段押し上げてしまっています。この日を以て僕の会社のPCの壁紙は酒井若菜になりました。同僚の女性には「キモい」と吐き捨てられましたが、この娘は僕がずっと見ていてあげないといけないのです。うん、確かにキモい。

 でも真面目な話、ちゃんとしてるなと思ったのが、主人公が酒井若菜を理解したと思う度に知らない現実が出てきてしまうっていう話運び。やっと一夜を共にして男としてはこれで大団円と思ったら借金が発覚、二人でマンガを描いてこれで通じ合ったと思ったら風俗で働いている。かなり誇張されてこそいますが現実の恋愛初期って正にこんなもんで、食らった側はそれでも好きだから何とかそれを飲み込もうと七転八倒するわけじゃないですか。それが重なることでどんどん気持ちが退けなくなっていき、同時にどんどん相手を理解していく。そのステップをしっかり観客に歩ませてくれているのは非常に上手いなぁと思いました。もちろんやっぱりイヤではあるんだけどね。

 そんな進んだり下がったりな感じが妙にシンクロしていたのが、キンゴ(子役)が主人公に放つセリフでした。「石のマンガなんかやめちまえ!」「やめんなよ!子どもの言うこと真に受けんなよ!」。あれはもちろん弱ってしまった主人公が己の弱りを自覚して転換するためのシーンであり、“我が道を進め”という主題の表現でもあるのですが、僕には何よりその「真っ直ぐな裏腹さ」がグッと来てしまったのでした。

 あ、あと久々にカメオ出演が上っ面やイヤミじゃない映画を観ました。それぞれの出演者が、ちゃんと正しい使い方をされていて、ホントにカメオを楽しめます。これもちゃんと考えてあることが見えて好印象でした。

 ただ最後に一つだけ苦言を呈すと、オタクに対するアプローチはやっぱりちょっと上っ面な感じがしました。マンガという物が恋愛を構成する一要素に過ぎず、オタクという人種の持つ社会との隔絶感にまでは踏み込んでいない。同人誌やコミケなど、それなりに具体的なオタク文化にまで言及しているだけにその感はことさら強まります。ただきっとこれはサブカルというオタク文化の中から、一般社会にまで届いてしまった松尾スズキだからこその開放感なんだろうとは思うんですけどね。でもまぁ何でもいいです。酒井若菜が可愛かったから。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)sawa:38[*] ina ぽんしゅう[*] ペペロンチーノ[*]

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