コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 道成寺(1976/日)

 情欲、怨念、哀しみ、エロス、ダイナミズム、はらりとこぼれる涙、そのはかなさ。人形の中に潜む様々な表情に圧倒された19分。
にくじゃが

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 安珍一筋に追いかけ追いかけ、やがてその思いは狂気となり、体までもが人でないものへと変貌し、さらに追いかけ続けるがついに諦め、人の姿に戻る。自分の姿までも替えてしまうほど強い思いは、全てを焼き尽くしてしまった。相手の姿だけでなく、自分の心をも。

 道成寺の清姫といえば、こわい女の定番。女だけを追っていくんでも充分怖いし、話もよくわかったと思うけれども、川本喜八郎は道端に通行人を置いた。清姫の姿に、あの女大丈夫かと首をかしげる通行人を。彼らを置くことで清姫の異常さは余計に際だった。駈ける足のクローズアップから、大蛇への変化、まず心が変わって、それから体までもが変わっていったという過程がよくわかった。この丁寧且つわかりやすい演出。ただの様式美に陥ることのない川本喜八郎のすごさがよくわかった。

 だからこそ、さらさらと灰が崩れ落ちてゆくラストシーン、その静けさが心に残る。 哀しきもの、そは“恋する”女なりき。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。