コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] クライシス(2006/米)

誰から誰を守っているのか分からぬまま強いられる隔離。夫婦の馬鹿さと芸のないフェード・カット連発には苛立つが、気の利いたオープニング・クレジット、懐中電灯をかざす巡回員、降って来るハトなど、低予算ながら雰囲気作りに成功している。(2011.9.26)
HW

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ドアの外に妻を隔離している状況に苛立ち、「俺が悪い夫だって言いたいのか? でも、家を目張りしたのは、俺たち二人で決めたことだろ?」と自分を納得させるように声を荒げる主人公(ロリー・コクレイン)に、逃げ込んできた男が悄然としながらも悲痛さをにじませる表情で"We didn't decide anything."と応える。ハッとさせられるセリフだ(「仕方がなかった」というDVDの日本語字幕はもう一工夫欲しいところ)。断片的な情報しか与えられず選択の余地もないままに迫られた決断を、「自分たちで決めたこと」と言えるのか。

 この映画は、テロそのものの恐怖というより、はっきりその先に眼を向けている。現場から車で逃げて来た男をマスクをつけた警官が銃で撃つ序盤のシーンで示されるように、恐ろしさは、「敵」の攻撃以上に、その結果、誰が「敵」なのか、誰を「味方」とみなせるのかが分からなくなってしまうその状況にあるらしい。国家機構が、一般市民を潜在的な保菌者(=社会的脅威)として監視の対象と見なす事態と、ウィルスによって苦痛や死を迎えるのではなく、害を及ぼす可能性が現れる前に、殺菌消毒の用量で処分されてしまう、という残酷な結末。その意味で、9.11以降の映画であるだけでなく、9.11「以降」を描いた映画と呼んでいいだろう。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。