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[コメント] サイコ(1998/米)

「ノーマン・ベイツ」と聞いて,あなたはどんな人物を思い浮かべますか?
空イグアナ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







*注意。ヒッチコック版やロバート・ブロックによる原作「サイコ」についてもネタバレあり。

2003年、最初に鑑賞した映画がこれでした(笑)。店でビデオをレンタル。再生。始まったのは聞き慣れた音楽に見慣れたアニメーション映像。何だこれ?ヒッチコックの「サイコ」そのままじゃないか!ああ、事務所の外に太った人が立っている……。

ヒッチコックの「サイコ」は間違いなく傑作だ。しかし、それが唯一の完成作品であるとは思わない。原作とヒッチコック版では、違うところがあちこちに見られるからだ。

雨の中、マリオンは車を走らせてモーテルに到着。ノーマン登場。これがノーマン?これが?何か、原作とヒッチコック版の中間の体格だなあ。怪しい雰囲気も無ければ、紳士らしさも感じられない。肝心のノーマンがこれ?

壁の穴から除かれるマリオン。鏡の前でポーズはとらないの?鏡に向かってキスを投げていかないの?(エロな趣味からではなく、原作ではこれが殺人への伏線になっている)

後半ライラとサムがモーテルを調べるが、原作ではノーマンは例の壁の穴からその様子を除くのだ。その後ライラが母屋を調べるために、サムがノーマンに話しかけて気を引くときには、ノーマンは二人がモーテルを調べたことをちゃんと知っている。それどころか、お前たち一号室を調べていただろうなどと言ってサムを翻弄するのだ。

その直前の会話も面白い。ノーマンはサムに、自分の母親を墓から掘り起こし、生き返らせたと話すのだ。曰く、人は魔術というだろうけどね、昔は電気だって魔術と言われたんだ。命も同じさ。生物が持っている力なんだ。俺はそのスイッチのオン、オフの仕方を知っている。

これ、僕が原作で一番好きな台詞です。いかにもオカルト信者が言いそうな台詞じゃないですか。「超常現象は非科学的だとか言うけどね、そうじゃないんだ。科学者がまだ知らない現象なだけであって、自然現象と変わらないんだよ。うんぬんかんぬん……。」

そしてこの台詞からも原作のノーマンがヒッチコックの描いたノーマンとはかなり違う人物だとわかるはずだ。ヒッチコックの映画では、やせたアンソニー・パーキンスがノーマンを演じていた。言動も紳士的で,サイコな殺人鬼とのギャップを、よい意味で出していた。しかし原作のノーマンは、太った体に眼鏡をかけているのだ。はく製作り以外にも読書が好きで、古代の魔術の儀式を読んだりしている。いかにも怪しい雰囲気を持った人物なのである。

はじめの三分の一が、お金を持ち逃げしたマリオンの逃亡劇で占められているのも、ヒッチコック版のアレンジ。原作では、一ページ目から、ノーマンが登場し、そこにお金を盗んだマリオンが逃げ込んでくる、という構造である。マリオンはあくまで脇役(原作では名前がメアリだし)。奇怪なベイツ親子が主人公、と言っていいだろう。

創元推理文庫から出ている原作の巻末では、翻訳者の夏来健次氏が作者ロバート・ブロックについて解説しているが、この「サイコ」のリメイクについても触れている。それによると、企画を聞いて最初は「何でそんなことを?」と思ったが、「若い人間が、名作を忘れている今、「サイコ」をリメイクするのだ。」という制作者側の説明を聞いて、なるほどと思った、と書いている。

文章から読んだ感じでは、夏来氏が原稿を書いたときには、まだリメイクは企画段階だったようだ。では完成した映画を観て納得できたのだろうか?少なくとも僕はできなかった。

今の若い人たちに「サイコ」を見せたいならば、リメイクなんかいらない。ヒッチコックの映画をリバイバル上映すればよろしい。古い映画だろうが、モノクロだろうが、宣伝次第で人は動くものです。マニアが「何で、あんな映画がヒットしたんだ?」と文句を言うのを見れば、宣伝というものの力が、いかに偉大であるかが、よくわかる。

夏来氏は「ロバート・ブロックについても(「サイコ」のリメイクと)同じことが必要なのではないか?」と言った上で、彼についての解説を始めていた。「サイコ」がヒッチコックの手によって映画化されたことにより、ロバート・ブロックには、「ヒッチコックのおかげで有名になれた作家」というレッテルが貼られたけど、彼は本当に力を持った作家なのだ、と。僕は、そこまで語るほど詳しくはないけれど、でも「サイコ」を見る限りでは、ロバート・ブロックという作家がかわいそうに思えてしまう。

忠実すぎるリメイクは賛否両論でしょうが、僕はトンデモ映画のリストに載せておきます(笑)。−−−そんな映画にこんな長いレビュー書くのもどうかと思うが……。

(評価:★3)

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