コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする(2002/仏=カナダ=英)

デビット・クローネンバーグ初体験!って、言っても、この作品は彼にとっては異色作なのか? 2003年4月1日劇場鑑賞
ねこすけ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







クローネンバーグの作品は見た事がないが、相当ネチョネチョグログロしていると聞く。『イグジステンズ』等、小道具が相当凝っていて、ネチョネチョ(?)としているとか・・・。一応予習として、彼の作品を何かしら見ておこうかと思っていたが、気がついたら公開日。「えっ?もう公開なの!?」とか一人で驚きながら見に行った。

なんと市内の映画館で上映館は一つだけであり、しかも、モーニングショーと例とショーの二回上映のみ。なんて、酷い扱いだ。天下(?)のクローネンバーグをそんな扱いするなんて、この映画に期待していた俺の身にもなってくれよ!とか、一人で劇場開館前にぶつぶつと怒りをぶつけていたが、見て納得。なるほど面白くない。

もしかしたら、クローネンバーグ監督作品って知らずに見れば面白かったかもしれない。まず、第一にネチョネチョしているものがある筈がない事を初めから予想していたが、やはり心の奥底では、そのネチョネチョした小道具を期待していた。

レイフ・ファインズの演技は素晴らしい。『レッドドラゴン』で、あんな殺人鬼演じて、今回は精神病患者。冒頭から、引き込まれた。彼の演技に。話の作り方も、なかなか新鮮ではあるものの、結局スパイダー少年の過去のトラウマと、家庭の崩壊、幸せの墜落、見たいなものを描く事に終始して、何をやりたかったのかが、最後まで明らかになっていない感が残る。

大体なんで彼が母親を埋められた場所を知っているのかすら疑問でもあるし、義母(親父の浮気相手)をガスで殺した後、精神病院に送られていたが、あの地点でのスパイダー少年は血の気の無い抜け殻、と言う感じではあったが、大人のスパイダー少年は完全にネジが飛んでいる(あまりよろしい表現とは思わないが)。彼に精神病院で何があったのか?なぜ彼の精神は大人になって突然崩れているのか?全く描かれて折れず、終始彼のトラウマを分析するだけの映画では説得力が無い。

まとめると、親父は飲んだくれではあるが、母親は親父を愛している。一応幸せな家庭(恐らくスパイダー少年は親父を好んでいない)。ある日、親父はパブで淫乱女に目をつけ浮気。徐々に夫婦仲は崩壊し始める。妻、夫の事が気になり畑の小屋へ。そこで夫と淫乱女の情事(?)を目撃。親父、母親を殺害し、淫乱女を家に連れて帰る。朝、少年は親父と淫乱女が一緒に寝ている事を目撃。ここで、母親は殺されたと確信。親父に反抗し始め、憎しみを抱く。以前よりもさらに自分の殻に閉じこもり始める。ある日、ガスで義母を殺害。親父は息子が’母親’を殺したと叫ぶ(ここで倒れている義母が母親とオーバーラップ)。少年は精神病院に収容される(ここで映画は終わる)。

ここから、彼が大人になるまでを映画では描かず、突然大人になっている。精神病院の中では、ガラスの破片を隠し持ったりし、多少の問題児(?)。ある日故郷の街に戻り、精神病者を宿泊させる家に泊めてもらう。しかし、故郷の街で記憶が蘇る。ガスタンクを見て、ガス臭い事を思い出したり、数々の事を思い出す。ある日、その家の主人と義母がオーバーラップし、殺害しようとするが躊躇っている所で見付かり、再び病院へ・・・。

って感じだろう。彼のトラウマや、少年時代の暗い過去、少年の母への愛など、一応ちゃんと描けているのだが、やはり最大の謎はなぜあの少年があのように成長したのか?である。ラストに残るのは、消化不良感であり、わざわざ劇場で見るまでもなかったという、小さな後悔だった。

話自体は嫌いではないのだが、特に目新しさを感じさせず、構成だけで引っ張っている。確かに、一時間40分の間、退屈はしなかったし、眠くも無かった。だが、映像的な驚きも、新鮮なストーリーもなく、あるのは手の込んだ悪戯。つまり、構成で話の面白く無さを誤魔化しているだけなのだ。挙句の果てに、説明不足のおまけもあり、見事な駄作に終わった。

この映画の唯一の収穫はレイフ・ファインズの演技ぐらいのものだろう。

って、今雑誌読んでみたら、この映画は「過去と現在、虚構と現実」の話で、要するに記憶と現実の違い。スパイダー少年の脳の中の話って訳らしい。うーん、確かにそう言われてみればそうだ。わざわざ母親と淫乱女と家主を似た女優(ってもしかして三役?)に演じさせたのは、ラストで「実は少年は本当の母親を殺していた」オチに繋がる訳だ。そう考えると、上に書いた解釈は違ってくる。あれは少年の頭の中の「記憶」であり、現実ではない。

だから母親が殺されて埋められた場所も知っていたんだろう(だって作った記憶だもん)。そして、ラストで義母と実の母親がオーバーラップしたのは、それはオーバーラップではなく、紛れも無くスパイダー少年の実の母親だったという訳だ。つまり、彼は自分で自分の母親を殺してしまった過去のせいで精神を病んだ、という事かもしれない。パズルをしながら「ピースが合わない」と叫んだり、メモ帳を破ったりしていたのは、恐らく記憶の’ピース’が合わなかったのであろう。

で、故郷の町に戻って来た事によって記憶がまた蘇り淫乱女とあの家主がオーバーラップして、殺そうと考え・・・と、いう具合かな?うーん、意外と難しい作品だわ、これ。

けど、どちらにしても、スパイダーの記憶内での少年時代の彼と、大人の彼の状態があまりにも違いすぎるのは、やはり説明不足かと思う。勝手な解釈をすると、「以前から自分の殻に閉じこもっている少しおかしい(?)少年でり、勝手に妄想して自分の義母を殺してみたら、実は本当の母親で今までの記憶と現実の違いに戸惑って精神が少しズレた」って事だろうか?

まぁ、精神分裂病って設定らしいから、子供時代の記憶全てが偽者、つまり自分が構築した記憶であり、現実はただ単純に「スパイダー少年はガスで母親を殺した」というだけなのか?

って、今考えたら凄いな。見終わった後は★2だったけど、今は★3つけてやる!凄いぞこりゃぁ、駄作って書いたのはミスじゃないか。見事だ。けど、別に二度見ようとは思わないけど・・・

ま、考えていくうちに評価が上がりそうな作品ではあるし、悪い映画とも思わない。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。