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[コメント] 悪魔の美しさ(1949/仏=伊)

DJ悪魔メフィストの持ってきた皿は社会であり人の心。それから創り出される音は悲鳴?それとも歓喜?
ジャイアント白田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







いやぁ、凄かった…。

マルグリットが「奇跡が彼を救うわ」と言ってマルグリットが契約書を投げ捨て、マルグリット自らが奇跡を起こす張本人になるといった一連の流れに、「奇跡は神の手で勝手に行われるのではなく自分自身が行動し起こさなければ、一生かかっても奇跡は起きないのだ」と「平和は我らの手の中にある」を作者が語っていると感じた。それはメフィストが魔王様に助けてもらえなかった姿、メフィストは自分から何に対しても働きかけてないのだから、という押さえが効いていて脳みそにすんなり入ってくる作者の確かな持論。見事!

そして、アンリがジプシーと共にいるも引き離されてしまう光景に、第二次世界大戦の傷が癒えていない様と民族自決の嵐が吹き荒れる世相を物語っていたり、王朝体制に群衆が民主主義の鉄槌を振り下ろす運動から出される音が、東西冷戦の足音をイメージさせるなど、細かい演出が随所にあるので「悪魔」に喰われることなく人間を人間史を克明にしるした映画となっている。

で、なんてったって題名よ。

題名『悪魔の美しさ』に、二度の世界大戦で悪魔以上の原爆などの殺戮兵器を平気に生産するようになった人間達が悪魔より悪魔らしくなったという事を、毒気溢れるユーモアセンスで照らし考えたので名題オーラがギンギンに漂っている。また、悪魔がいつの間にか美しくなってきたと言うのは、ケンカにルールが無くなった今の時代にも精通していて、見ていて飽きが来なく、様々な解釈が何度出来る優れた映画という印象を持った。 極めつけが、「魔王様お助け下さい!見捨てないで!私の責任です。でも見殺しには…この肉体から解法を!お許しを!人間は地獄より恐ろしい!」というメフィストが最期に言ったセリフに凝縮されている内容が濃すぎて、『人間>悪魔』以上のメッセージが争いが絶えない世界に生きる人間の中で、これからも多くの解釈が産み出され続けることでしょう。

蛇足気味にもういっちょ。

王室を画面に引きずり出して、典型的王室天国を描写している一方、ルネクレール監督は天国に潜む悪魔を確実に火あぶりで外に出させて恥をかかせることに成功している。「ここまでするか」と言いたくなるほどの描写は、まさに「パンがなければお菓子を食べればいいのに」発言のアントワネットをリスペクトした成果。紙幣の増刷に飽きたらず錬金術に手をだして、偽金を社会に蔓延させるといった愚考で成立する愚作は「紙幣がなければ偽金貨をあたえればいいのに」という名言が似合うまでに作り上げた結晶だと感じる。

2002/11/11

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)寒山拾得[*]

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