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[コメント] 海の上のピアニスト(1998/伊)

1900は現代の引きこもりそのものだとも言える。相当に気合いが入ってるけど。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 時代的には『ニュー・シネマ・パラダイス』と重なっているのだが、シチリアと言う狭い地域に限定されていた『ニュー・シネマ・パラダイス』と比べると、前提条件がとてもユニーク。ここでの舞台はとても広いともいえるし、きわめて狭いともいえる。なんせ物語全部がすべて一隻の船の中で行われているのだ。そういう意味では大変狭い世界。だけど、舞台が豪華客船と言うことは、世界中を旅することであり、舞台はワールド・ワイドなものとも言える。

 その結果、本作はとてもユニークな設定を持つようになった。主人公1900の世界はきわめて狭く、人間関係も限られたものとなっている。しかし、否応無く情報として世界情勢が入り込んでくる。

 この状況は実はネット社会となった現代こそぴったりと当てはまる事でもある。かつて情報の収集はテレビと新聞、雑誌などによってなされていたものだが、今やネットを介し、普通は知られないような情報も比較的簡単に手に入れることが出来るようになったし、そこから情報発信も出来る。今や小説を書く場も、音楽を作ってそれを流す場も整えられている。外面から見て引きこもった状態であっても、誰よりも世界情勢が詳しい人間だっているのだから。こんな時代を扱っていながら、むしろ1900の立場は現代の人間に近いのだ。

 こんなユニークな設定を作ったというだけでも本作のおもしろさは際だっている。1900が船から出ようとして出られない下りは、ほんとに引きこもりの心理そのものだろう。あれは詩情にあふれる感動的なシーンとしてではなく、そちらで考えた方がよく理解できたりする。

 難点を言えば、本作は長すぎると言うところだろうか。こういう構造を持っている以上、どうしても話はミニストーリーの積み重ねにならざるを得ないが、それらの物語が多すぎる、あるいは長すぎるため、結構退屈を覚えてしまう部分も多々存在する。『ニュー・シネマ・パラダイス』であれ、『マレーナ』であれ、どうにもトルナトーレ作品は余計な描写が多すぎて、結構退屈する事が多い。もう少し短く出来ていれば文句なしの傑作にはなったのだが。

 歴史をふまえた作品と言うのが好きな人にとってはとても楽しい時間を提供できるのは確かだから、そう言う観方する人には文句なしにお勧めする。

(評価:★5)

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