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[コメント] ピノキオ(1940/米)

原作以上にフォーマット化されてしまった。良かった部分と悪かった部分があり。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 カルロ・コロディの童話「ピノキオ」のアニメ映画化作。ピノキオ自体は大変メジャーな童話で、現代に至るまで数多くの映像化作品が作られているが、ほぼこれが最初の映像化となったため、後に作られるピノキオ作品のフォーマットになった。

 ただ、本作がフォーマットになることが良かったのか悪かったのか。

 私自身は小学校の時に岩波書店で出ていた原作を読んでいる。これはこども向きとはいえ、かなり原作に近い筆致で書かれたもので、内容は大変硬質だった。物語は大変残酷で、ピノキオは勝手放題。親であるゼペットの期待を裏切ることに全く気にしないし、自分の行いが誰かを死に追いやったとしても気にしないという性格。今にして思うに、これだけ全く感情移入の出来ない主人公を良くも作ったものだと逆に感心するほどである。

 それは念頭にあったが、ディズニーが作るんだったら、相当脱色されたものになるだろうと思っていたが、予想以上だった。

 映画化するに際し、自分勝手なピノキオをの造形でだいぶ改変を行った。ピノキオの勝手な性格はかなりマイルドになり、さらにピノキオを諫める役としてコオロギを登場させた。このコオロギはなんの力も無いためにピノキオを止めることは出来ないまでも、良心を代弁させることで、ピノキオの勝手さをかなり抑えることに成功している。

 実際完成したこの作品は、かなりピノキオが可愛くなっていて、多少の勝手さも一般的な魅力に寄せた感じになってる。かなり感情移入が出来る魅力的なキャラクターが出来上がった。

 ただ、それが良かったのかどうかは難しい。ストーリーこそ沿ってるとは言え、肝心な主人公が全くの別キャラになってしまっても良いんだろうか?

 すくなくともこれに関しては良い部分と悪い部分があって、子どもが見ても普通に楽しめる内容になったお陰でピノキオの物語は世界中で楽しまれるようになったというのが良い部分。イタリアローカルの童話が世界的メジャーな作品になったのは大きい。

 一方悪い部分は、作品の持つ個性を殺してしまったこと。童話における最も重要な要素は、それがどんな形であれ、作者の思いが優先されるはずである。それが失われたときに作品としては既に別物になってしまう。

 どっちの要素もあるので、なんとも言いがたい。

 ただ、この作品の作画のクォリティはとんでもないものだ。特に鯨の遊泳シーンなんて、技術の進んだ今の目で見ても全く遜色ないどころか、むしろこっちの方が凄い。どれだけ手間かけて一コマずつ描いていったのかと思うと気が遠くなるほどの労力が掛けられていた。これを観るだけでもこの作品を観る価値はある。

(評価:★4)

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