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[コメント] 幕末太陽傳(1957/日)

言うなれば、これこそが“粋”ってもんでしょう。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 本作はそもそもが落語のネタ(「居残り左平次」「芝浜の革財布」「品川心中」の3つ)が元。それだけに軽快な会話とどたばた喜劇を進上とした作品だが、ぴりっと辛みを入れた巧い風刺になっている。川島雄三としては初の時代劇ながら、様々な要素を詰め込んで、大変バランスの良い作品に仕上げられているのが特徴。

 ところで、誰しも理想的な生き方というものがあるだろう。特に歴史の中にあって、功成り名を上げるというのも一つの理想だろうが、他にも、歴史の渦中にあって、義理やら人情やらから完全に離れて自分のやりたいように生きるというのも、やっぱり理想的な生き方の一つではないだろうか?少なくともかつてはそう言うのを“粋”と言っていたはずだ。自分で危機を招き、ギリギリの中で自分の才覚だけでそれを切り抜ける。人に迷惑をかけまくるのは確かだが、それを全て冗談にしてしまい、死んだ後に「あいつは面白い奴だった」と言われるような生き方。これはこれで理想的な生き方ではあろう。

 ここでのフランキー堺演じる佐平次の生き方は後者。彼は極めて能力が高いが、労咳病みで、自分の体が長く保たない事を知っている。故にこそ、残った人生をおもしろおかしく生きていくことだけに全てを賭けたのでは?彼は高杉晋作らと親交を持ったりしていて、歴史の中枢をなす大人物達から一目置かれる存在ではあるが、決して彼らを大人物と扱っておらず、自分と同じ人間としてのみ(つまり面白いかどうか)だけで見ている。なかなか出来る生き方じゃないが、だからこそこういう生き方は憧れる。

 本作はフランキー堺の代表作と言われるだけあって、その魅力を十分に発揮出来ている(空中に放り投げた羽織に袖を通すシーンは邦画の名シーンの一つとも言われる)。これが初時代劇出演という石原裕次郎を完全に食ってしまったのも面白い所。川島雄三監督の撮影も映えてる。

 ところで本作に『太陽』の文字が付くのは昨年のヒット作『太陽の季節』(1956)に表される“太陽族”から来ているそうだが、太陽族はこういう粋を信条としたというのだろうか?私の理解ではそうではないはずだけど。

(評価:★4)

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