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[コメント] HANA-BI(1997/日)

TVコメンテーターとしてはあれだけ雄弁な監督だからこそ、沈黙の強さというのをよく知っているのかも知れません。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 先日、友人と話をしていた折、日本のロードムービーに傑作はあったか?と言う話になった。しかしいざ考えてみると、海外作品だったらいくらでも思いつくものだが、いざ日本では?となるとなかなか思い浮かばない。実際その時の話では「無いなあ」とか喋っていたのだが、改めて考えてみると、本作が日本におけるロードムービーの傑作の一本なのではないか?と思えるようになった。

 『その男、凶暴につき』(1989)以来、物議を醸す作品を次々に世に送り出してきた北野武監督だが、これまでの総決算とも言えるべき作品が本作といえよう。

 これまでの北野監督作品のように、台詞を極力廃し、短絡的に事件を起こしていく主人公という構図は変わらないが、本作の場合は主人公の無口さは輪をかけて激しく、劇中ほとんど喋ることをしない。しかもやってることは計画性も何もない。目の前にある障害を排除するだけ。はっきり言ってしまってもの凄く短絡的な作品である。しかし、それが先の読めない展開となって常に画面に緊張感を出させることに成功している。それに言葉を無くすることによって、かえって雄弁に伝えたいことが伝わってくる。言葉を失い、感情を手に入れたのが本作の最大の強味と言えるだろう。

 その演出を裏付けるのは、間の良さとカメラ・ワークの凄さ。特に静から動に突然変わる演出は監督独特のものだが、その完成形を本作で見た。静かに静かに展開していって、本当に予告無しの一瞬でアクションへと転換する間の取り方は一種の名人芸と言っても良い。それと、静かな中に緊張を挿入するカメラ・ワークも凄い。これは監督よりは撮影の山本英夫の巧さ。久石譲のくどい音楽の使い方も妙にはまる。

 見事ヴェネツィア国際映画祭でグランプリを取ったのは、ストーリーそのものよりも演出の良さによるものではないかとも思える(審査員の中に塚本晋也監督がいたからという話もある)。

(評価:★4)

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