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[コメント] 映画大好きポンポさん(2021/日)

映画の作り手に対する視点が最高。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 杉谷庄吾原作漫画の映画化作品。

 この作品のタイトルは前から何かと目に付いていた。特にTwitterでフォローしている映画好きが時折呟いていたこともあって、著者をフォローして、ちょっとだけ作品の片鱗を見ていた。とにかく映画大好きというタイトル通り著者が本当に映画好きなのがよく分かる作品だった。

 原作が他の映画批評系の漫画と大きく異なるのは、作られた映画について語るのではなく、映画をいかに作っていくかという作業を細かく描いているというところ。これは珍しい。しかもこの作品の面白さは、通常の意味での映画作りからも微妙にずれているところにある。映画作りと言えば当然監督が中心になるのが大半。あとはカメラとか技術者とかなら分かるんだが、製作者を主人公にするというのは、私が知る限り一作も無い。

 タイトルで分かるとおり主人公は「ポンポさん」なのだが、中心になるのはジーンというオタク青年。彼が監督に抜擢されて四苦八苦するのだが、それを叱咤激励しながら常に上から目線でサポートするポンポさんの姿が見ていて心地よい。

 そんな時に映画化の話題があった。正直「こんなもん映画になる?」というのが最初の印象だが、同時に作りようによって凄まじく面白いものが出来るという、変な確信を持ったので、すぐさま観に行くことに。

 結果として言うなら、これは観て良かった作品だ。

 本作は映画制作をテーマにしているが、映画を作る際、重要なのは何かというのが普通とは別の目で見られている。

 通常このような映画を作る作品なら、主人公は天才的な感性を持った監督を主役にすれば良い。自分の思い通りの映画を作るために悪戦苦闘する姿がサクセスストーリーと重なって見応えあるものになるから。

 しかし本作の一応の主役であるジーンは映画オタクであり、自分の感性とか、「これだけは作りたいものがある」というモチベーションは低い。ただし映画の作り方についての事前知識は山ほどあり、素材を用意してくれれば、それを料理する編集能力に長けている。いわゆる職人監督である。そんなジーンが最も優れた素質のある編集に話の中心を持って行った。

 編集はとても重要な作業だが、基本的には部屋に籠もってひたすら映像を見まくるだけの地味な作業で、全然見栄えがしない。そんな作業を中心にしたのは画期的なことだ。  基本的にこの作品が普通と違うのは、ジーンは最初から敷かれた成功を約束されたレールに乗っている。面倒な交渉や脚本、役者への根回しなどは映画界の申し子ポンポさんが全部やってくれ、あと監督としてやることは実際カメラを回し、それを編集することだけだ。本来映画制作の面白さとか醍醐味は全部回避されてしまった。

 編集作業以外は全部トントン拍子に進む。なんでもかんでも上手くいってしまう物語って、物語としては盛り上がりに欠けるはずだが、逆にそれがとても心地よかったりする。こんなイージーな仕事やりてえなあ。とか思い、凄く羨ましい気持ちで観られるし、それがとても気持ちいい。

 だからこそ、編集作業という地味な作業の中にドラマを作るのだが、そこだけジーンは個性を見せる。何でもかんでもお膳立てされ、言うがままに映画を作ってきたが、ここで一つだけ妥協出来ないものが出来てしまった。このシーンが恐らく映画としてのクライマックスとなるだろう。

 でも基本主人公のジーンの物語は地味な上にとても弱い。ジーンだけでは話が成り立たないので、ここにナタリーという女優のサクセスストーリーと、映画製作者としてのポンポさんの手腕も同時に描いていく。ナタリーについてはともかく、ポンポさんの活動はなかなか面白い。なんせ映画作りで最も重要なのは、作るための資金なのだから。金がなければ映画は作れないし、売れなければ会社も潰れる。だから金を調達して、尚且つ興行的に成功する映画を作らねばならない。その任を担うのが製作者である。

 ポンポさんの有能ぶりはオープニングから際立っている。

 映画界の申し子と言われながら娯楽用のモンスター映画ばかりつくっているのも、このタイプのジャンル映画も作り方によっては大ヒットするものが出来るという哲学によるものであり、実際に結果を出している。ポンポさんがジーンに映画を任せたのだって、自分の書いた脚本で作ればヒットする上に賞も取れるという確信があったから。それなりの実力があれば、誰が撮ってもそのクォリティが出せる。

 一見これは監督を下に見る傲慢な見方に思えるのだが、ここではむしろ製作の大切さというのを強調している。

 ただこれだけだとジーンはポンポさんの操り人形みたいなものになってしまう。そのため編集作業で行き詰まったジーンが勝手を言って追加の資金投与が必要になったということをイベントとして挙げた。結果としてこの作品は編集と製作という、軽視されがちな部分に注目して、それをエンターテイメント化してくれた。

 映画を作るという作品でこう言う作り方も出来るんだと感心することしきり。

 しかも大変心地よく。見事な作品と言えよう。

(評価:★4)

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