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[コメント] チャイニーズ・ブッキーを殺した男(1976/米)

難解な作品を作るカサヴェテス作品の中でもたいへん分かりやすくバランスに優れた作品と言えますが、実は監督は編集に関わっていなかったのだとか。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 いわゆる“ニューヨーク派”インディペンデント映画の雄カサヴェテスは、決してインディペンデントのみの監督ではない。いやむしろ監督として有名なのは娯楽作の方。『グロリア』が有名だが、本作も監督の実力をよく示した一本といえよう。

 そもそも物語作りそのものは巧いのだ。本作だって犯罪スリラー初挑戦作品であるに係らず、手慣れた作りであり、そこに監督得意の心理描写に深く踏み込んだ物語展開を見せている。

 物語上の最大特徴としては、大きな犯罪の出来ない小悪党タイプの主人公が強いられて大犯罪に手を染めねばならないというところだが、事あるごとに主人公の小心ぶりが強調され、そんなことが出来るはずがない。ととうかいの嵐。しかしやらねばならない。というどうどうめぐりに落ち込み、どんどん精神の均衡を崩していく。この描写にかけてはカサヴェテスの右に出る者はおらずで、特にこの過程描写はうまい。

 それでガタガタブルブル震えつつ、それでも目的を果たした後、それまでには観られない自信と言うか、ふてぶてしさに変わっていく描写も良い。結局コズモは殺されてしまうことになるが、死を前にして堂々とした態度を崩さず、それまでやれなかった他者に配慮する行動まで見せる。やり遂げた人間の満足感の対比が見事に表されていた。

(評価:★4)

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