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[コメント] アリス・イン・ワンダーランド(2010/米)

最近のバートン作品はドキドキさせてくれないので寂しい。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 本作は2010年度春の最大の期待作だった。実際観客動員数は全世界的にもの凄い数に上り、更に3Dと言う事もあって、私にとっても相当な気合いで観に行くことになった。

 …のだが、やや気分的には落ち込んだ。

 少なくとも私としては、この作品は「無難」としか言えない。心揺さぶられる部分があまりにも少なかった。期待度の高さに裏切られてしまった感じもあり。

 いや、作品としてはかなりまとまっているとは思う。脚本はかなり練られていて、「不思議の国のアリス」の続編としては充分な出来だし、それにアリスの成長を絡めた物語はかなり深いレベルで映画としての完成度も高い。

 良い部分は色々数えることは出来る。例えばワンダーランドの住民達は、主要人物の性格が多少変わっているにせよ、ちゃんとオリジナルで登場したキャラはきちんと出ているし、そこでの言動も一々頷けることが多い。私なんぞは、原作読んだのはもう遙かな昔とは言え、「読み込んでるなあ」という思いにさせられた。

 また、本作は女性の成長物語に焦点を絞っているのも良い感じ。19歳になったアリスは、一見もう大人なのだが、その実は思春期をまだ脱してない女の子に過ぎない。周囲に対して主張を持たないのにただ押しつけられる出来事に対して反発を繰り返している。そんなアリスが様々な冒険を経て、心の成長を遂げ、最後は自立した一人の女性として帰ってくる。この辺の描写はかなり細かく、アリスの立ち居振る舞いは最初と最後で全く異なっているだけでなく、劇中にも刻々と変化して行ってる。描写としてはかなりのレベルに至ってる。

 と、まあ少なくともお膳立てに関してはきっちり揃ってるのだ。

 だけど、なんでこんなに薄味になるんだ?

 成長物語という意味ではかつて『ビッグ・フィッシュ』であれだけ見事に人の成長を描けていたバートンが、その描写にまるで力が入ってない。いや、確かにその変化もちゃんと目に見える形で出してはいるのだ(前半部分、周囲に流されると言う事に対して苛ついていたアリスの視点はふらついていたのに、赤の女王と白の女王の決戦の辺りになると真っ直ぐ前を向いていた辺りとか)。でも、それがまるで心地よく感じない。たくさん出てくるワンダーランドのキャラクタに関しても、マッドハッターとチェシャ猫以外はほとんど存在してるだけって感じ。そして肝心なこの二人のキャラの性格がかなり原作とは変わってる。マッドハッターが言った「この世界は狂ってなければ生きていけない」という言葉がとても虚しく聞こえてしまう。だって狂ってるように見えないんだもん。

 これは『ナルニア国物語』の時にも感じた事なのだが、ファンタジー作品の場合、主題を相当に絞り込まないと、物語がとても表層的になってしまう。何か一点、物語上、ここだけは描かねば。と言う所があると、その部分を中心に物語が広がっていくが、物語を無難にまとめるだけになると物語が広がらない。

 多分その部分。バートンらしい毒気を入れずにきっちり作り過ぎなんだよな。私はその毒気を観たくて映画館に行ってるんだから。

(評価:★3)

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