コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ヘルス(1980/米)

皮肉と悪意がたっぷり詰まった群像劇。こういうのを撮らせたらアルトマンの右に出るものはありません。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 アルトマン監督は世界的な一流監督と目されるが、ソフト化された作品はさほど多くはない。これは意外ででも何でもなく、アルトマンの姿勢があくまで攻撃にあったため、様々な権利がごちゃごちゃしてしまい、結果的にソフト化が見送られてしまったという事がほとんど。特に本作はその典型的な例だろう。なかなか観る機会がないと言われる。たまたまTV放映されたのはラッキーな話。

 それは一見してよくわかる。健康協会の話というのに、そこに登場する人間は「私はこれだけ健康です」と誇示して、高額な健康食品を売り込もうとする輩や、まるで健康であることを至上命題とするかのような、あたかも新興宗教の教祖の如き存在感を見せる輩。更にその利権にあずかろうとたむろする人々の群れ。これが会長選挙ともなると、両陣営にはオブザーバーと称するいかがわしい人間が陣頭指揮を執る…極めて皮肉に満ちた物語であり、事実これは大統領選を風刺した作品とも言われ、この年見事大統領選を勝ち抜き、第40代大統領の就任を控えたロナルド=レーガンはこの作品を観て、いたく気分を害したらしく、本作を「最悪の映画」と称しているほど(お陰で危うく作品自体がお蔵入りしそうになったのだとか)。

 とにかく皮肉と悪意がたっぷり詰まった群像劇で、こういうのを撮らせたらアルトマンの右に出るものはない。これだけごちゃごちゃしていて、声もそれぞれ出しているのに、しっかり焦点が定まって、誰が何を言っているのかはっきり分かるし、表だった華やかな舞台の後ろで、強烈なロビイストが熾烈な暗黙の戦いを展開していく。そしてあまりにあっけない物語の幕切れ。と、怒濤のごとく物語が展開。苦笑いしながら観ていくのが本作の醍醐味だろう。

 キャラで言っても強烈な印象を与えるキャラばかりで、よくこんな濃い目の人間を配して作り上げたもんだ。久々の映画登場となるバコールは、貫禄が出過ぎてるけど、完全御輿状態の役を楽しそうに演じてるし(まるでゼンマイが切れたかのように全ての動きが止まるシーンは大笑い)、口ばかりのリベラリスト役のジャクソンも、発言の軽さが良く出てる。強烈なロビイスト役のモファットの発言も全米ライフル協会を引き合いに出したりして、完璧に喧嘩撃ってるんじゃないの?というレベル。実に楽しい。

 物語そのものがかなりぬる目で物語も唐突に終わってしまうのでちょっと消化不良の印象も受けるけど、監督の政治不信と強烈な悪意を感じられればそれで充分。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。