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[コメント] ソウ3 SAW3(2006/米)

これだけ色々考えさせられる作品を単なる残酷描写だけでスポイルしてしまったのは返す返すも残念な話です。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 「ソウ」シリーズの第3弾。この一連の作品の凄いところは、普通ホラーとかサスペンスとかは続編が出る度にグレードダウンするのが普通だが、少なくとも3本作って全然質が落ちてない(あくまで主観だが)と言うところ。『ソウ』ではそもそも主人公の側がどのような人物だか分からなかったのだが、『ソウ2』でジグソウは無作為に犠牲者を選んでいなかったことが分かった。ジグソウが選んでいた人物は皆何らかの犯罪を起こし、それを社会的に隠していた人物ばかり。それが今回は初めて完全に被害者としか見られない人物が犠牲者に選ばれている。この人物ジェフは事故で息子を失い、失意の中にある人物として最初は描かれてる。まるで悲惨さを上塗りするかのような物語展開が意外だったのだが、話が進むに連れ、だんだんジェフの本性が見えてくる。そして、お約束の大どんでん返し。と怒濤の展開が楽しめる。

 ただ、物語自体の質がとても高いのに、やっている描写があまりにもグロというか、精神的に耐え難いようなトラップが次々と出てくるため、画面を正視出来ない。特にドリルとか電ノコの音はでかすぎて耳に来る。目も耳もいい加減に疲れ切ってしまったよ。『ソウ』程度の描写で抑えてくれれば点数は高く入れられるのだが、物語以前にそれでもうきつくてきつくて…もったいなさ過ぎる。

 ただ、本作も深読みすると、かなり物語も奥深い。

 ジグソウが求めたものとはなんだったのか。改めてそれを考えてみると、責任感と言うものだったのかもしれない。

 確かにジグソウは冷酷で猟奇趣味の殺人者には違いない。さらに彼の行っていることは極めて倒錯的ではあるのだが、改心のチャンスを必ず与えていて、改心するならば、その通りに生きていくことを求めていた。彼の言動のすべては他者に改心を呼び掛けることからなっているのだ。これは彼自身が死を迎えるに際し、自らが得た実感だから。4の方を観てないため、その確信はないのだが、彼自身が改心したからこそ、それを他者に求めていたとも考えられる。彼は人間を憎むことはない。ただ人によって引き起こされる悪に対して憎しみを持っていたに過ぎない。だからこそ彼は、人を殺すのではなく、ゲームという形を取らせる。その命懸けのゲームを越えることで犠牲者は新しい自分を見つけられるように。その願いがあったかと思われる。

 本作では3人の人物にゲームが仕掛けられている。一人はメインとなるジェフ。彼の試練は延々と続くため、それが本作の一番目を惹く部分になるのだが、同時に女医であるリンにも自分を生き残らせられるかどうかのゲームを強いている。これはジェフのゲームに直接つながり、その結末を見るためかと思われたら、それだけではなかった。なんと自分の弟子であり、後継者であるアマンダにもやはりゲームが仕掛けられていたという、二重構造の罠になっていたという特徴がある。

 では何故アマンダにゲームを仕掛けたのか。明らかにアマンダが間違ったことをしているから正そうとしたのは間違いないだろうが、そんな回りくどいことをした理由を考えてみたい。

 アマンダは『ソウ』及び『ソウ2』において二回に渡ってジグソウのゲームを受けている。一度目のゲームは彼女を目覚めさせるため、二度目のゲームでは彼女がジグソウの後継者となるための試練だった。『ソウ2』はブラフだったとも考えられるが、その試練を乗り越えることでその権利を得たため、あれは本当の試練だったのだろうと、この作品を観ると、そう思える。

 しかし、ジグソウはそれをアマンダに自分で気づいて欲しかったのではないか。命をかけたゲームを何度仕掛けてもアマンダは乗り越える。という思いもあっただろうが、仮にそれが出来なかったら、それは自分の後継者たる器ではない。という事を心に決めていたのだろう。ここで仕掛けられたゲームは、アマンダの器量を見るためのものだった。  そしてそれはある意味、自分に対するゲームでもあったはず。自分の行っているゲームをちゃんとやりこなす人間を残せるのかどうか。

 結果としてアマンダはジグソウのゲームに、今度こそ失敗。そしてリンもジェフもやっぱり失敗。結果的にジグソウは全てのゲームに敗北してしまった。とすれば、本作はブラックジョークとして観るべきなのかもしれない作品。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ピストン わっこ[*]

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