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[コメント] 姿三四郎(1943/日)

柔道とは柔の道。これは道を究めようとする男の物語だ。戦いは修練の場。生きるか死ぬかの果たし合いを通してでさえ、人は成長する事が出来る。不器用な男たちが、不器用ながら着実に成長する物語。とも見ることが出来る。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 黒澤明監督の監督デビュー作。デビューという割りに、実に手慣れた作りで、とても新人とは思えない程の完成度を誇る作品。重いストーリーの中でも決してユーモアを忘れることなく、それぞれの、不器用な者達の人間性に焦点を捉える事に成功している。

 それになによりカメラ・ワークが実に素晴らしい。蓮の花を見て三四郎が悟りを開くシーンの合成は有名だが、三四郎が山嵐を決めた時の180°以上に回転するカメラや(あの直後のスローモーション・シーンは凄い。当時では最高峰の技術を二つ重ねることで、恐ろしいほどに見栄えのするシーンにしてしまった)、対峙シーンでの焦点の当て方など、よく練られている。

 これまでテレビシリーズやアニメ、映画などで何作か『姿三四郎』の作品は観てきたが、さすがその元となった作品だけある。完成度の高さは折り紙付き。他の作品が三四郎の柔道シーンをこだわって作っていたのに対し、むしろこれは人間の内面への考察に溢れていたように思える。その焦点の当て方は確かに間違ってない。

 これが制作された当時はまさに太平洋戦争真っ直中。そんな時流の中、国策映画とは無縁に作られたためか、激しい検閲を受け、多くのシーンがカットされてしまった。近年になり、ロシアで多量の戦争中の邦画断片が発見されたが、いくつか本作のカット部分も発見されたそうだ。DVDの特典として、いくつかのカットシーンをつなぎ合わせた“最長版”が収録されている。見応えがあるので(コメンタリーも良い)、DVD購入はこれもお薦めの作品。

(評価:★4)

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