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[コメント] マラソンマン(1976/米)

初見で本作を観て、その直後に歯医者に行ける人間がいたら、その人こそ本当の勇気を持った人間だと断言したい。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 かつてヒッチコックが得意とした“巻き込まれ型”サスペンスを70年代風にアレンジした作品で、生々しさと緊張感の演出の発展によって、新しい魅力を作り出す事に成功している。主人公のちょっとした特技が危機を回避させたり、ファム・ファタルが登場したりと、基本はヒッチコックそのまんま。それを上手く仕上げた感じ。ヒッチコックの後継者を自認するデ・パルマをさぞかし悔しがらせた事だろうと思えたりする(笑)。

 確かに出だしは月並みだし、世界中で関わりを持つのかどうか分からない繋がりの演出も今ひとつもっさりしていたのだが、それがあれよあれよという間に話が繋がっていき、中盤から後半に向けての疾走感は実に素晴らしいものになっていく。様々なシーンで本当に“痛い”と思わせたり、走っているシーンを観ているこっちが息切れしそうな演出方法も流石。何よりあの“歯医者”のシーンはあまりにも生々しすぎて、観てるだけで痛く…これほどあの“チュイーン”という音を上手く使った作品は他にあるまい。

 本作は演出の良さもあるけど、キャラ立ちがはっきりして、登場人物がそれぞれ特徴ある演技を見せているのが大きい。主役のホフマンは既にこの時代で貫禄を見せ、最初に登場した時の夢見がちな青年がいくつもの危機に見舞われる内に顔付きがどんどん厳しくなっていく過程を楽しめる。対して基本的に調子が良いのだが、それまでにも修羅場をくぐってきているのか、危機感知能力が異様に優れてるシャイダーも観ていて楽しい(多少やり過ぎという気もするけどね。あれじゃほとんど超能力だよ)。ただ、本作の最大の功労者はなんと言ってもオリヴィエだろう。強烈な悪役ぶりは堂に入っていて、好々爺たる表情を全く崩さず、楽しげに拷問を行うシーンは、観ていてあまりに恐ろしすぎる。オリヴィエの演技力を改めて楽しめる。

 拷問シーンの素晴らしさはこのオリヴィエあってこそ…にしても、“歯医者”とは上手く考えたものだな。観てる側が、これほどリアルに痛みを感じる職業は他にないぞ。“痛みの共感”という意味では、突出した作品と言えるだろう。

(評価:★4)

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