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[コメント] けんか空手 極真拳(1975/日)

原作梶原一騎だが、実は吉川英治なんじゃないだろうか?
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 70年代東映映画。これだけで反応してしまう人は大概だが、この当時の東映映画、特にアクションものは荒唐無稽で早撮り。明らかに消費されるだけを目的とした作品なのだが、逆にだからこそ愛おしい作品群でもある。そしてその中枢を担ってきたのが千葉真一率いるJACだった。この当時のJAC出演作品はとにかく酷く、そしてとにかく愛おしい。例えばそれは『直撃!地獄拳』(1974)であったり、『激突!殺人拳』(1974)であったりするのだが、全く同じ作りで、実在の、しかも存命の人物を描くという恐ろしいことをやってのけたのが本作である(さらに驚くべきことに大山倍達本人も出演してる)。

 演出面ではとにかく暴力描写のすごさがまず挙げられるだろうが、「ほんとにこれ空手なのか?」というレベルでの描写であり(当時流行ってるからということで空手家が中国拳法まで使ってくる)、相当に無茶苦茶。

 それに輪をかけてすごいのが物語。確かにこれ40年代を舞台にしているものの、一般人を平気で射殺する警察や、相手がやくざだとたとえそれが殺人でも正当防衛になってしまい、一切裁判なしに釈放されてたり、一人の人間を殺したからと言って一年間喪に服したら、その次の瞬間には何十人も相手にして重傷を負わせてみせたり(というか明らかに何人か死んでる)、空手の大会に出るはずが、不必要な殺し合いの方が忙しくて大会は完全に無視されたりと、なかなかもって素晴らしい無茶苦茶ぶりだったりする。  それがまた70年代東映作品を見事に表していたりする。かなり貴重な作品なのは確かだが、これは大人数でわいわい言いながら笑って観るには最適な作品ともいえるだろう。

 一応原作として梶原一騎の「空手バカ一代」があるのだが、本作はその原作さえかなり無視し、作りたいように作ってしまってる。

 さらに全般を通して考えると、本作は原作梶原一騎ではなく、吉川英治なんじゃないか?と思える演出が多々。明らかに大山倍達を宮本武蔵と同一視しようとしている姿勢が見えたりもする。それは例えば既存の剣術(空手)に異を唱え、どんなにバカにされようとも自分自身を磨こうとしている描写だったり、これまでの人殺しを悔いて悟りを開くまでだったり、そんな彼と結ばれることなくひたすら見続ける女性だったりする。極めつけは最後の洗武館との戦いは一乗寺下がり松の戦いと全く同じ。あらかじめ『宮本武蔵 一乗寺の決斗』(1964)あたりを観てから本作を観たら楽しさは倍増するだろう。

(評価:★3)

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