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[コメント] 東京キッド(1950/日)

これも又、時代が求めた映画だということなんでしょう。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 敗戦後五年が経過。この間に作られた邦画で、今なお語られる作品には明らかに三つの傾向に分かれている。一つはそれまで押しつけられてきた反動によって大手を振って作られるようになった社会派的傾向を持つ作品(実際自主規制が多い現代よりもこの時代の方が見るべき作品が多い)。二つ目が戦後という時代を冷静な目で見つめ、混乱した社会情勢を民衆の視点から撮った作品。この時代でしか撮れない作品と言うことで、この手の作品が一番生き残ってる。

 そして三つ目にして、一番多かったのは、実はかなり単純なスラップスティック作品。時代が暗いからこそ、映画館では思い切り泣き笑いして憂さを晴らしたい。と言う社会の要望をそのまま映画化した作品と言うことになる。ここには必然的に劇画化された社会というものが登場するが、世知辛い暗い時代だからこそ、人情というのが大変重要視されることになる。時代を反映し、設定は確かに暗いが、しかし人間味を強調することで大団円へと持って行く。荒唐無稽であっても、心から求める理想というのがここにはあるのだ。確かにその場限りの作品が多かったかも知れないが、こういう作品を量産することで、戦後日本の実力派監督は力を付けていくことになった。

 本作は見事に時代性を捕らえた作品だろう。ここに登場する人達は毎日毎日ぎりぎりの生活をしていながら、基本的に人が良く、すぐに情にほだされてしまう。中心となる美空ひばりを巡り、そう言う人達が集まっては、勝手なことをやって失敗して、そして最後は情に流される。確かに単純な物語だ。だが、単純な物語をこそ求めていた時代に作られた傑作として、実に味わい深い作品に仕上がっている。

 それに本作は美空ひばりは中心であって、主役ではない。彼女を巡って行われる大人達の丁々発止のやりとりがその中心となっているのが大きな特徴となるだろう。主人公である川田晴久と堺駿二はともかく、ここに花菱アチャコやらエノケンやらを絡ませることによって、物語はオールスター喜劇の様相を呈する。その豪華キャストを見ているだけでも楽しくなってくる。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)りかちゅ[*]

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