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[コメント] マイ・ビッグ・ファット・ウェディング(2002/米=カナダ)

民族コメディはアメリカでは表面的には好まれないのに、実は大好きという矛盾を上手く突いた作品。とは言えるでしょうね。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 強烈なカルチャーギャップが巻き起こす騒動をユーモラスに綴った作品。2002年を代表する映画の一つで、スリーパー映画(前宣伝もせず、批評家の受けも悪かったが、公開してみると、驚くほどのヒット作となった作品)と呼ばれる。元は主演のニア=ヴァルダロスが自身の体験を基に自作自演した一人芝居だったのだが、それを観たトム=ハンクス夫妻の目に止まり、彼らのバックアップで映画化が実現したと言うことでも有名になった。少なくともハンクスはプロデューサとしての目も確かであることを証明する結果にはなった。

 まあ、物語の展開そのものは良くあるロマコメにちょっとした自虐的民族ギャグを加えたって感じなので、アメリカ人でもなければ女性でもない私には今ひとつ個性を感じることが 出来なかったのだが、一応この設定のユニークさは推測出来る。

 アメリカは移民国家であるが故に、一つ大きなタブーが存在する。特に民族ネタは一般生活の中では語ってはいけないものとされている。これは結構よく言われるのだが、スタンダップコメディアンを目指して日本からアメリカに渡った日本人芸人がことごとく失敗するのは、この認識を持たないからだという。「ほら。私は日本から来ました。珍しいでしょう」…一発目でこれを出したら、もう誰もその話を聞かなくなってしまう。それだけ民族の特異性を語るのはタブー化されているのだという。

 これだけ表面的には押さえつけられている。だが同時に民族差別ネタは大変好まれると言う矛盾を抱えているのもやはりアメリカなのである。表の部分で差別をするのがいけないからこそ、アンダーグラウンドではこそこそと語られていくのだ。

 映画においても実はこれはあって、特に大手の映画製作会社は民族ネタを殊の外嫌う。やるとしてもコメディではなく、真面目な内容にするように心がける傾向が強い(勿論無い訳ではない。特にアフリカ系監督によって作られたブラック・エクスプロージョン作品はかなり受けの良いのもあり)。そういう間隙を縫うようにしてこういったインディペンデント映画が作られていくのだが(逆に民族ネタ使ったコメディは、その大部分がインディペンデント映画であると認識しても良い)、特に民族ネタを使った作品がここまでのヒットするのは珍しい。

 それはコメディとしての質の高さと言うこともあるだろうけど、本作の場合は、本来差別される側のマイノリティが差別する側のマジョリティに向かって手をさしのべるとした作りであることが大きな強味だろう。この作り方だと、いくらマイノリティが自虐的になったとしても文句を言われることは無い。ここが上手い所だ。

 このヒットによって、てっきりこのネタが増えるかと思ったのだが、あんまり増えたように思えない。今でもやっぱり民族ネタはハリウッドでは難しいのだろうか?

(評価:★3)

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