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[コメント] マタンゴ(1963/日)

あいつ等、悪い奴等じゃぁ無い気がする。以下、微笑みのマタンゴと下妻ジャスコについて。
sawa:38

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







外界への脱出が不可能な孤島。過去、多くの船が漂着し、ある者は死にある者は生き残った。・・・「キノコ」として・・・

脱出出来ない孤島とは、将来にわたり小さくともそこが「世界」の全てである。脱出出来ないという「現実」を受け入れた者はそこで二者択一の選択を迫られる。餓死かキノコを喰うか。

多くの者は現実を受け入れ、さらにキノコ人間になっても生きる道を選ぶ。そりゃ誰だってキノコ人間になるなんて嫌だ。でも餓死なんてのも嫌だ。だから仕方なくキノコを食う。

だが、考えてみれば「世界中」皆キノコ人間だらけなら、変な劣等感を持つ必要なんて無い。(下妻に住めばジャスコは最高なのだ!)しかも何だか楽しそうじゃないか!原色のキノコの森はまさに快楽の象徴だし、そそり立つ笠の張ったキノコの森はペニスを表しているようでもあり妙にエロティックだ。考え方ひとつでここはパラダイスになる。ドラッグ・セックス・満腹感。人間(だった頃)の欲望の具現化がここにある。

ここでポイントがひとつあった。キノコ人間たちは「鏡」を割っていた。醜くなった自分の姿を見たくないからなのか?それはもう取り戻せないと判っている「過去」との決別を表しているのだろうか?

とても小さな「世界」だけれども、もはや彼等は「世界標準」である。逆に「人間」の姿をした者は異分子である。そんな「世界」に異分子がいると、彼等の心は乱れる。「希望」という名の下に「現実」を直視せずに餓死を選択する異分子たち。(まるでラストサムライじゃないか!)そんな異分子たちの勝手な振る舞いは、せっかく彼等が捨てた未練を再びかき立てるのだ。

では彼等がとった行動はどうだろう。異分子を排除する為に彼等を殺そうとしたか?否である。彼等は異分子をキノコの森に「招き」、餓死の運命を否定した上で「生きる」という運命を与えた。つまり拉致された異分子は命を救われ、今後は「世界」の一市民として仲間に加えられた。

異形の怪物とみれば否応無く銃を発砲した異分子たちに対し、共に生き抜く勇気を持とうとする怪物たち。

彼等は難破船に現れた時、きっと泣いていたんだと思う。彼等はキノコの森で久保明を取り囲んだ時、きっと微笑んでいたんだと思う。現実を直視せずに死に急ぐ元友人に彼等は優しく語りかけようとしただけなんじゃないのだろうか?

私にはアノ「キノコ人間」たちがどうしても悪い奴等には思えないのです。

(評価:★4)

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