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[コメント] トンマッコルへようこそ(2005/韓国)

数年に一度、私の映画鑑賞履歴を揺さぶる作品に出会うことがある。
sawa:38

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「ご都合主義のベタベタなファンタジー」・・これがこの映画の正体だ。そんな事ぁ誰だって鑑賞前に判ってる。

だが所々顔を覗かせるリアルな描写が我々を現実の醜い世界へ引き戻しをかける。当初アンバランスかと思われたリアルな戦闘シーンが、ほんわかムードのファンタジーと際立てば際立つ程このスパイスは効いてくる。本作で描かれる戦闘シーンは『ブラザーフッド』並みの迫力で統一され、けっして蝶々なんかは飛ばない。それに対し非戦闘の日常パートに移るや蝶々が飛び交い、『スウィングガールズ』をパクったでしょ(?)みたいな猪との格闘シーンまで登場してしまう。

この脱線振りはヤリ過ぎとの批判もあるのだろうが、何とも居心地の良い時間だったではないか。そのぬるま湯感と南北協調というまさに夢まぼろしのような幸せな時間。

この監督は夢の時間と現実の時間をあまりにも対極的な演出で描き分けようとした。問題はそのバランスと強弱なのだろうけど、ここまで確信犯的な画作りをされちゃうならばもう降参です。極上のファンタジーとして身を任せてしまいましょう。

そしてラスト。リアル描写の戦闘機の機銃掃射から生き残った3人の上空に姿を現した爆撃機。突如リアルモードからファンタジーモードへ切り替わる画つくり。監督は観客を再び戦火の朝鮮半島からトンマッコル村に引き戻してくれる。

この強引な切り替えが見事だった。雨あられのように降り注ぐ爆弾の中で佇む男達の画。白いポップコーンが降り注ぐのと同じ演出で爆弾を撮った。こんなあり得ない画、何とも奇妙な画、美しく恐ろしい画。一生忘れ得ぬであろう画があった。

この何とも哀しい結末をリアルモードでなくファンタジーにした監督の狙いは何だったのだろう?南北協調に対する期待感なんて夢まぼろしの如く儚いものというあきらめがあったのか?それともこんな夢を見ようよっていう期待感の熱望からなのか?どちらにしても私はこんなラストで助けられた。ベタベタなファンタジーならばこんな終わり方でないと駄目なんだ。これが一番良いケツのまくり方だったと思う。

映画を数多く鑑賞してくると、数年に一度、こんな大好きな映画にめぐり合える。

ほんわかしていて、大声で笑えて、泣かせてもくれる。そしてとてつもなく大きな問題を内包して強いメッセージを発信している。嗚呼、これぞ「映画」だよなぁ!だから映画は止められないんです。

(評価:★5)

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