[コメント] 不信のとき(1968/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
まず、田宮二郎と三島雅夫が登場する。二人しておもむろにヌード小屋に入り、「新入りの子よ」とばかりに加賀まり子を紹介される。ケバイ化粧をした「小悪魔まり子」、いそいそと服を脱ぐ。どうやら、ここ、女性の裸を眺めて楽しむだけの個室らしい。フムフム・・・。オールナイト上映の眠い目をこするおれ。
と、その瞬間である！！
いきなりのタイトルバック。光流れる都会の街を背景にモンド系ミュージックがGO！「社会派監督」今井正とは思えない軽快な滑り出しに血液逆流。そのスビード感に思わず映画館のシートから身を乗り出す。あわわわわわわわ、これって増村保造作品に初遭遇した時の気持ちとそっくりだ！このテンポ、（随所に挟まれるシリアスシーンのせいで淀みつつも）なんとラストまで続く。今井正、会心の一撃！
・・・さてさて、『不信のとき』には様々な「不信」が交錯する。
�‥諜椶魯曠好謄垢任△�若尾文子の「男関係」を疑っている。
��田宮と同じく、ホステスという職業に偏見がある岡田茉莉子は、若尾が産んだ子供が「田宮の子であること」を疑っている。
�Ｅ諜椶浪�田から「先天性無精子症」(←つまり子供が作れない)である事を告げられるが、それをどこかで疑っている。
�ぜ稟�は��の「岡田の言葉」を、若尾の子供を田宮の子供だと認知したくないがための「ウソ」だと思っている。
問題は、「真実」がどこにあるかではない。三者が三様にお互いを「疑っている」、それがこの映画のテーマだからである。「愛」が存在しないのは、「真実」がないところではない、「信頼」のないところなのだ。なぜなら、どんな「嘘」もそこに「信頼」さえあれば、各々の主観的な「真実」となるのだから・・・。試してみるといい、上の四項目のうち、どれか一つでも「真実」だと信じれば、全てはたちまちにして破綻するだろう。「疑い」こそが、お互いをがっちりと支え合っている。そして、そうした個々の「疑い」を狂信的なまでに「信じている」というパラドックス。これは、いうまでもなく「共同体」の考察にも応用できる。「国家」とは「共同体」同士が疑い合うことで生まれ、それはやがて「ナショナリズム」を生成する。（しかし、シネスケには社会派コメンテーターがいるので、その点についてはこの程度で留めておく。）
こう書くと、なんて陰惨な映画だろうと思うかもしれない。しかし、今井の才能は「原作」の持つコミカルな部分を拡大して、「コメディ映画」にしてしまったことだ。実際、（田宮の愛人である）若尾を追いかける岡田の場面は、常識的に考えれば「戦慄のシーン」となるはずなのに、コミカルな「映像」と「音楽」とを交えた「イマイ」の「ウマイ」（失礼・・）演出のせいで、気持ちの良い微笑が誘われるしくみになっている。まるで、人生のアクシデントなんか笑い飛ばせ、といわんばかりに・・・。
「疑惑」という名の「関係の網」。しかし、「救い」の予兆はある。それは若尾と付き合う以前に田宮が関係していた岸田今日子の存在である。ある日、ばったりと岸田と遭遇した田宮。岸田は田宮に子供を見せ、自分の子供は「おそらく」田宮の子であるという。田宮と付き合っていた当時、「田宮以外の男とも関係していた」と認めつつも、岸田はそれをやはり田宮の子だと「信じる」というのだ。
そして、田宮はその言葉を「信じた」か？
「真実」は観客にもわからない。
ラスト、田宮は遊園地のベンチに腰かけている。そして、そっと笑う。何も解決していないにも関わらず！！
しかし、実はラストで注目すべきなのは田宮ではない。その背景で回る遊園地の「乗り物」なのである。くるくると回り続けるそれは、「テーマ」を主眼にしてこの映画を見た場合に不可避に遭遇してしまう、「改心劇」という解釈を吹き飛ばしてしまうのだ。くるくるくるくるくるくるくるくるくるくる。
回れ！ 回れ！！ 回れ〜！！！
「輪廻」という言葉すら喚起しそうなその回転運動。それは観客にこう語っている。
幸福、それは "Return To Forever" だと。
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