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[コメント] ラスト サムライ(2003/米=ニュージーランド=日)

「殺戮と罪」などという大仰な課題を設定しておきながら、ものの30分も経たぬうちに、そのテーマに沿って話しを進めることすら出来なくなってしまう映像構築力のなさに、80年以降長期低迷を続けるハリウッド映画の致命的な欠陥を見た気がする。
ぽんしゅう

野蛮人の思想を借りてでも、何が何でも人殺しを正当化しようとするアメリカの野蛮さを、今さらあげつらうのも虚しいのでやめる。世界をマーケットとする商品なのだから猿だって別の惑星では英語を話して当然だと考えている製作者たちに、日本の風習や風景や時代考証の杜撰さを説いても意味はない。

問題は、現在のハリウッドにはひとつのテーマに焦点をあて消化していくだけの力を持った映像作家が存在していないということだ。普段は空想や別世界の出来事として私たちが気付かず見過ごしてしまっているハリウッド映画の怠慢さに、この日本を舞台とした映画が気付かせてくれる。エドワード・ズウィックが、テーマを映画として構築していく力をまったく身につけていない監督だということが私たち日本人に実に判りやすく露見している。

70年代後半にF・フォード・コッポラS・スピルバーグG・ルーカスが登場して以来、ハリウッドが輸出商品としての映画製作システムの充実に奔走し、80年間に及んで培ってきた映画作家としての監督の育成を怠った罪は重く大きい。アジア各国からの監督招聘や企画の買取、旧作のリメイク、ヒット作の続編に頼らざるを得なくなっている現在のハリウッドの状況は、アメリカ映画界にとって思いのほか重傷なのだ。

私はハリウッド映画のファンである。時に自己犠牲もいとわぬヒロイズム、弱者を優しくすくいあげるヒューマニズム、果敢に不正を正す民主主義思想、夢のようなアメリカンドリーム、壮大なスケールで描かれるファンタジー、勇気と誇りに溢れたヒューマンドラマ、息をも抜けぬ華麗なアクションと息詰まるスリラー&サスペンス。映画の楽しみは全てハリウッド映画で知ったと言っても過言ではない。

かつての映画技法が全てハリウッドから生まれたように、真の意味で世界の映画をリードするべくハリウッド映画の復活を心から祈る。

(評価:★2)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)りかちゅ[*] ちわわ[*]

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