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[コメント] 同胞(1975/日)

何の説得力もない論法でも、「こうありたい」という話を生真面目にまくしたてられると「その方が、良いかも知れない」という思考停止状態に陥ってしまう。普遍的なテーマにみえても、映画の主題は農村住民と巡回劇団員にしか届かないほど自己目的化している。
ぽんしゅう

「多数の困難を伴うからといって、演劇公演をやらずに済ますのは始めから失敗したのと同じであり、どうせ失敗するのならチャレンジして失敗した方が良い」という理屈は、遊びやスポーツならいざしらず、失敗すれば少なからぬ負債を抱えるという点で、まったく大人の判断に値しない。

「失敗したら自分の飼い牛を売ってでも金を作り、一人で責任を持つ」という青年会々長に対して、会長個人に責任を負わせるわけにもいかないので、みんなで責任を分担するという情緒的ことなかれ主義は、もの事が成功したときには丸く納まるが、失敗したときには悲喜劇を生む可能性がある。

こういった考え方が、戦後の民主化教育と称して日本中に蔓延し70年代の公害問題をへてバブル経済時代にピークに達し、今もなお日本社会にはびこる無責任体質のもとになっているのは明らかだ。組織的な意思決定をするときにこそ個人の意思が大切であり、情緒的全員参加ほど危険なものはない。

20代のころに、この作品を見て感じた山田洋次的不快感の元がどこにあったのか、再見してみてよく分かった。

(評価:★2)

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