[コメント] アンデス、ふたりぼっち(2017/ペルー)
虫、鳥、犬、羊。土、川、草木。炎、風、雨、雷。嘆息、息切れ、いびき。豊かな音が画面から聞こえてくる世界で老夫婦は、いつ帰るとも知れない息子への思いを心の支えに、生活に必要な最小限の会話を交わしながら働き最期に向かって“この地”で余生を生きる。
ここはこの世の淵。まるで黄泉との境界のようだ。
かつてアンデスの青年と少女だった老夫婦は、この山で出会い、長い時をかけてささやかな幸福を蓄え、ある日訪れた息子の巣立ちをきっかけに、蓄えてきた幸福をまた長い時間をかけて少しづつ失い続け、気づいたらこの世の淵に取り残されていたのだ。
そんな山の暮らしが、ワンシーン・ワンカットのフィックスショットで、ときに動的に、ときに静的に緻密に設計され積み重ねられていく。孤独な老夫婦が日々直面する状況の、なんとスリリングでサスペンスフルなこと。
二人が作中で使うアイマラ語は、現在のペルーでは希少な言語なのだそうだ。今は盛りを誇る文化にしろ、生物にしろ、いつかは絶え果て、この世から消えしまうかもしれないということ。作者のオスカル・カタコラは、この老夫婦の姿に、この世の“無常”の無謬性を重ねたのだろう。
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