コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] アンテベラム(2020/米)

エンタメとして抜群に面白く、レジスタンスとして容赦なく過激。南北戦争前の亡霊は、いまだこの世を徘徊しているというホラーのような・・・。このブラックなファンタジーは、まんざらの幻想ではなく彼らアフリカ系アメリカンの体内を流れる生活実感なのだろう。
ぽんしゅう

まず始めに、これから本作をご覧になる方は、大きなお世話なのは承知ですが、できる限り前情報を入れないで鑑賞することを強くお薦めします。

冒頭、奇妙に美しい夕景(不思議な色味の映像だ)のなか、クラシック調の重厚な楽曲にのせて、アメリカ南部の豪奢な綿花農園のなかを縫うように進みながら、裕福そうな母娘、南軍兵士の隊列から勇壮かつ不吉な南軍旗、多少は小奇麗なメイド服姿の黒人女たち、さらに汗まみれの綿花摘みの黒人労働者、そして・・と続くステディカムのロングテイクショットに圧倒され、この物語の「陰」の世界に引き込まれる。

一転、現代パート。黒人女性にして人権啓蒙家で、優れたアジテーターとして脚光を浴びる社会学者のきらびやかなこと。優しい夫と可愛い娘、社会的地位と名声、喝采と支持、良き女性同志らとの颯爽たる振る舞い。そんな物語の「陽」の世界に、ときおり亡霊のように垣間見える「陰」の気配の不吉さ。そして、もしも彼女たちの言動が、いささかなりとも傲慢に見えたとしたら、それもまた(私のなかに巣くった隠しきれない)偏見なのだろう。

150年以上の時を経て流れ続ける「陰」と「陽」の世界の苦悩を熱演するジャネール・モネイが素晴らしい。最終盤、大写しになった彼女の“形相”に、物語の冒頭で告げられた言葉「過去は決して死なない 過ぎ去りしさえしない」への決意が痛々しくも“刻印”されている。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。