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[コメント] 無法松故郷へ帰る(1973/日)

前作の付け足しのような内容かと思いきや、そこに描かれていたモノは全く別の問題だった。
死ぬまでシネマ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







日本に一時帰国した藤田氏は、まず兄に迫害されて家を出たという妹に会い、それから長崎に入って兄と対面する。他の兄弟は原爆で死んでいる。離婚を繰り返している乱暴者の兄に、妹に優しくして欲しいと頼むが全く相手にされず、藤田氏はすっかりやりこめられた上に、戦友の証言を元に自分が戦死扱いにされ、その遺族補償を兄が得ている事を知る。一度はやりこめられた藤田氏も、市役所で陰謀を確信するや戦友のところへとって返し、戦友と兄に向かって恨みを爆発させた啖呵を切り絶交を宣言する。監督の今村はその様を見て<棄民>という言葉を思い浮かべる。国家の繁栄のために切り捨てられた藤田氏らの棄民と、金の力を頼って捨てる側に立った兄と…。

今村の誘導によって映画は問題を浮き彫りにする事に成功したが、藤田氏本人にとっては気の毒な結果となった。話の持って行きようによっては、藤田氏と兄が仲良く戦争と戦後の労苦を語り合う結果にも成り得たのかも知れない。ただその場合はお互いの立場を誤魔化した形での決着になっていただろう(戦後日本人の多くはこうした卑しい決着に甘んじて生きていった)。映画は不条理を徹底的に抉り出す事に成功している。『軍旗はためく下に』と一対にして観たいドキュメンタリーといえる。

  ◆  ◆  ◆

今年(07年)の戦争特集のテレビ(民放のドキュメント)に藤田松吉氏が出ているのを偶然視る事が出来た。藤田氏はタイ現地で結婚した奥さんと死に別れ、養子達とも疎遠となり、独りで生活していた。足腰が立たなくなっていたが、「ここタイで百歳まで生き抜く」と宣言していた。

全部を視聴する事は出来なかったが、番組によると藤田氏には原隊離脱のために脱走兵の疑いがあり、帰日できないのはその為もあろう、という事であった。映画で出てきた兄は、弟を勝手に<戦死>にしてしまったが、それには弟が脱走兵とされる心配の為もあったのだろうか…。それは問題点のひとつにはなるだろうが、TVコメンテータの発言の主旨が、残留の責任を丸で個人にあるかのように持って行こうとする話なら、俺には納得しがたい。

(評価:★4)

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