コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] いつか眠りにつく前に(2007/米=独)

人生の皮肉と素晴らしさ。男も泣ける女性映画。☆4.2点。
死ぬまでシネマ

この映画で唸らさせられたのは、ひとびとの「どうしようもないすれ違い」だ。登場人物はそれぞれ労り・愛・友情など慈しみの感情を持つ人々なのに、彼らはそれぞれが悲しいくらいに断絶している。アンと2人の娘、その娘同士(姉と妹)、妹とその連合い、アンとバディ、バディとハリス、アンとライラ(過去も現在も)、ライラとハリス…。何と全ての人物が優しさを持ちながらも「完全には伝わらず、報われない」。そして…アンとハリス。この二人も互いに錯覚し、どこかでズレてしまっている。だから、決定的な事件を前にしてどうする事もできなかったのだ。

つまり人間はどうしても不完全な存在である、という事ではないだろうか。多くの映画ではしばしば相手を全て理解したり許したりする人間愛が描かれるが、この映画のアンは相手の事を気遣いつつも冷淡な態度を取ってしまうし、相手を理解出来ない蒙昧さを捨てきれない。

(バディは不安定な心の中で炎を燃やし続け、その想いが乗り移ったかのようにその後のアンの人生を狂わせてしまう。一方ライラはその後の人生によって成長し、自分の代りにあのアンが「囚われてしまっていた」事を知って驚いた筈だ)

しかし驚かされるのは、そこからの再生なのだ。すれ違い、完全に解り合う事の不可能な現実を前にして、それでもひとびとがどのように和解し紡ぎ合って行く事が出来るのかが示されている。完全に解り合う事のない相手を愛すること。完全に理解し合う事の出来ない不完全な存在である人間が寄添って生きて行くということ、この映画をぼくはそう理解した。見事だと思う。

ヒュー=ダンシーの演技は素晴らしかった。オイシイ役所とはいえ、見事に他の役者を喰ってしまっていた。余りに悲しい男。この「女性映画」の中でも、これは男にこそ伝わる辛さかも知れない。

モルヒネを投与されているだろう末期患者の老人がこの様に煌煌とした眼をしている筈はないのだが、それは物語のマジックとしていいだろう。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)ことは[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。