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[コメント] みえない雲(2006/独)

原題の”Wolke”は”雲”。邦題では「みえない雲」というが… ☆3.7点。
死ぬまでシネマ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







映画では雲は見えている。最初見えなかった雲が「雲だ!」という叫び声と共に現れ、どんどん迫り、そして上空を覆い、激しい雨を降らせる。雲はこの映画に於ける<恐怖の大王>だ。だから「見えない」という言葉の意味する警告・恐怖も解るものの、「見えない雲」という<非顕在の存在>表現を題名に据えている事に、単純に「見えてるっつうの」という違和感を感じる。

映画では黒い雨は降らない。放射能を含む事=雨が黒くなる事、ではない。原爆の被害は「熱線」「爆風」「被曝(放射能)」の3つによってなされる。爆心に至近な者はその全てで一瞬乃至短時間に死亡するが、距離が開くほど「熱線」、そして「爆風」の被害は少なくなる。最期まで被爆者を苦しめ続けるのが「放射能」であり、皮肉な事に核兵器が開発された目的は前2者による敵の壊滅だった。(だからこそ放射能被害が明らかになった時点で核開発国(=某ならずもの国家A)は核兵器の撤廃へ転換しなければならなかったのだ。「美しき」我が国は、放射能被害を世界に訴える事もせず、国内と国外の被爆者を否定し続け、更に核保有の道を探ろうとしている)*

…話を戻そう。原発事故では爆発はあるだろうが原爆ほどの大爆発ではないので、大量の粉塵を巻き上げたり都市の大火災を引き起こしたりはしない筈だ。だから雨はそんなに黒くならないだろう。原爆のような「熱線」「爆風」による大量殺戮も起こらない。しかし黒くない雨でも大量の放射能を含んでいる。「放射能」による大量の殺戮が行われる。チェルノブイリの時の様に。[「美しき」我が国にはまだ核兵器はない。しかし50を越える原発が稼働し、現時点で全く必要のないプルトニウムを青森で生産し始めている。被曝者は既に生まれているし、近い将来、この狭い国土で<大量殺戮>が行われるだろう。それは「美しき国」の自滅(自殺?)と言えるかも知れない。]

敢えてそうしたのだろうが、この映画には「何故こんな事になったのか」という怨嗟の叫びは見られない。『日本沈没』の様な天災映画のティーン映画にしてある。それがこの映画の強みであり、俺が4点を献上しない理由でもある。(ともあれ主人公を演じた女の子の覚悟は見事だった。我が国の田中麗奈麻生久美子があの『夕凪の街 桜の国』をどう演じるのか、楽しみだ。)

*『ヒバクシャ 世界の終わりに』参照。

(評価:★3)

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