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[コメント] 機動戦士ΖガンダムIII 星の鼓動は愛(2006/日)

 そしてついに完結編が公開された……!
桂木京介

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 主人公発狂!――テレビ版「機動戦士Ζガンダム」は、日本テレビアニメ史上最悪の結末をむかえる。あまりに多くのものを背負わされすぎた主人公カミーユ・ビダンは、宿敵パプテマス・シロッコの思念にひきずられるようにして精神を崩壊させてしまうのだ。カミーユは続編「機動戦士ガンダムΖΖ(ダブルゼータ)」にも完全廃人状態で登場し、全体的に明るいイメージのある「ΖΖ」内で暗黒の異彩をはなちまくっていた。

 テレビ版放映から二十年、ついに公開された劇場版「Ζ」三部作では、この救いのないラストが変更になるとアナウンスされていた。となれば気にせずにはいられない。一作目『星を継ぐ者』、二作目『恋人たち』、駆け足のストーリー展開にオイオイといい、描き直されたキャラクター・メカニックに素直に興奮しながらも、僕の念頭にはずっと「で、ラストはどうなるの?」という、期待半分不安半分の感情がうずまいていた。ここまで併走してきた大半のファンにとっても、それは同じであったろう。そしてついに完結編が公開された……!

 展開が早すぎる、テレビ版の流用シーンと新作シーンでは極端に絵がちがう、一部の登場人物の声優がテレビ版と変更されている……といった不満はこれまで同様とはいえ、三作目なのでもう慣れた。また、初代「ガンダム」キャラの登場シーンがファンサービス的に増やされているのはあいかわらず嬉しい。

 このように、流れとしてはこれまでの劇場版「Ζ」を踏襲している本作だが、三作目の特徴をあげるならそれは、ハマーン・カーンの存在が大きくクローズアップされたということだろうか。旧ジオン公国の残存勢力アクシズは、ドズル・ザビの娘ミネバ・ザビを総統に据えてはいるものの、わずか八歳のミネバに実権はなく、摂政のハマーン・カーンが事実上の指導者となっている。といってもハマーンだってまだ二十歳(!)だったりするのだが。

 さてそのハマーン、テレビ版からしてすでに、設定年齢二十歳っておかしいんじゃないかと思えるほどのカリスマを放出していたけれど、劇場版では妖艶さ老獪さが三割増しといったところで、全登場人物中もっとも鮮烈なキャラクターとなっている。とくに強烈なのはそのサディスティックな笑い声で、マゾっ気のあるかたはこれを聞くだけでゾクゾクするかもしれないぞ!

 その一方で、テレビ版ではミネバを道具としかみていない印象のあったハマーンが、意外なほどの優しさと気づかいを八歳の幼君に見せたのには驚いた。あらほんとは忠臣だったのねー。また、昔の恋人シャア(クワトロ)に「いま謝って戻ってくれば許してやるぞ(ていうか戻ってこい)」的な発言をテレビ版以上に連発して未練がましいところををみせたりなどしていたのも面白い。冗談抜きで今回、ハマーンがもう一人の主役かもしれないと思った。

 さてクライマックス、控えめに語ると、大半の観客にとっては納得のいくラストではなかっただろうか。すくなくとも「救い」はあると思う。もっといい終わり方もできただろうが、そこまで改変しないあたり、さすがに「新訳」と名乗っているだけのことはあるのだ。

 かくしてΖガンダム映画版は終わってしまった。 いまよりずっと若い頃、「Ζガンダムはオリジナル「ガンダム」より面白いんだから、映画化すればいいのに……」と僕はボンヤリ思っていたものだ。それが実現してしまった。それはもちろん嬉しいのだが、すこし寂しいような気がするのはなぜだろう。

(評価:★5)

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