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[コメント] 浮き雲(1996/フィンランド)

どんな不幸よりも、本編終了後の献呈の字幕に涙。つつましやかにたくましい、イロナもとてもナイスです。*『過去のない男』のネタバレもあります。
tredair

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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過去のない男』との二本立てということで、久々に再見。

やはり最も泣いたのは最後の献辞なのだけど、あれはきっと「空を見上げる二人のアップ」に続くだけに、なおさら泣いてしまうのだろうなぁと、やや冷静に思えるようになった。

ところどころ流れるチャイの曲が美しいメロディとはいえ『悲愴』だというのも、なんだか微妙な感じでよい。台詞では決して語られないが、イロナたちは自分たちの子を幼いままで失っているのだ、という設定も、二人の関係性やライフスタイル、それぞれのキャラに上手に反映されていると思う。

過去のない男』同様にこちらもハッピーエンドではあるのだけれど、それでも、重いものをきっちり背負っているという事実をつきつけられつつのこのシアワセの方が、私にはずっとリアリティが感じられ好みだ。

主人公が過去にこだわったりがんじがらめになったりする必要はなくとも、それをあまりにあっけらかんと『過去のない男』のように(物語の構造上からさえも)否定されてしまうと、現実感もそれだけ薄まり魅力も弱まってしまう。

それはそれとしてファンタジーとして受け入れられれば楽なのだろうけれど、私にはもはやカウリスマキの映画をそのような視点で見ることはできない。

「何かはあるがそれをあえて気にせずともよい」というのと、「特に何もないから気にせずともよい」というのとでは、意味あいがまったく違う。

テーマの訴求力といった点でも、あえて語らせたり嘆かせたりせずとも端的にふたりの過去にふれたこの『浮き雲』の方が、あえて直接的に訪ねさせたり聞かせたりしたうえでサラリと流させる『過去のない男』より、ずっと優れているような気がした。「過去よりも明日を」というごく当たり前のメッセージを、静かに、けれどとても強く訴えられている気がした。

私はカウリスマキならではのこんな「ほろ苦い小市民映画」こそを、とても大好きだと言いたい。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)moot トシ[*]

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